第3話またすぐに。

じゃ、またすぐに。その言葉は翌日に現実となった。いや、なるはずだったというべきだろうな。今日、行っても大丈夫?とLINEが来たのは確か15時の少し前だったと思う。正直に言うと僕はうれしかった。返信は『あんたはよっぽど暇なんだね。ま、そんなに来たいなら別にいいけど。』と冷たいものだったけどきっとちゃんと伝わってくれたと思う。確証はないが。橘は17時くらいに来るらしい。僕は何か飲み物を買っておこうと思い、1階にある売店まで金を持って行った。でも、今思うとこれが良くなかった。この時の僕は先生の言葉を忘れていた。『楓君は今、何があってもおかしくありません。少しの事でも呼吸がしずらくなったり発作が起きたりするでしょう。病室を長い間出るときは看護師を付けるのでナースコールを押してください。』完全に忘れてた。エレベーターが点検中だったので僕は階段を下りていた。階段を降り切ったときに僕の呼吸は既に早くなっていた。僕は久しぶりに動いたから少し疲れただけかと思っていた。本当は身体のSOSだったのに。売店まで少し距離があったので歩いていると、徐々に心臓が痛くなってきた。息が吸えない、落ち着け、ちゃんと吸え、吸えない。どうしよう、視界がどんどん狭まってくる。何でこんな時に限って発作が起きるのだろう。僕が生きようと、思ったときに限って何で、何で、何でだよ。頼む、神様。僕、今日、幸せになれそうなんだあいつに会うんだよ。あいつの笑顔を1回だけでいい、1回だけでいいから、見せてくれよ!!! 僕の意識はここまで。

~橘和~

私は予定より少し早めに病院についた。病室の番号をしっかり確認して病室に入った。

「楓、、、君?」

目を開けてなかった。少し遅めのお昼寝かな。最初はそう思った。けど、そんな甘い考えはすぐに砕けた。看護師さんが入って来たのだ。

「えっと、橘さん?」

「はい。そうですけど。楓君は今お昼寝中ですか?」

看護師さんは少し悲しそうな笑顔を浮かべた。 そして、すべて教えてくれた。楓君は心臓の病気で、いつ何があってもおかしくない状況なこと。小さい時にお母さんが楓君を置いて出て行ってしまったこと。小さいころから自分の命について異常なくらいに興味がなかったこと。今日、楓君がとても楽しみにしてくれていたこと。売店の近くで発作を起こしてしまったという事。

「楓君、今まで1度も売店なんかに行ったこと、なかったのに。きっと貴女に何かあげようとしてたのね。」

まさか。私に送られたLINEにはあんなこと書いてあったじゃない。

「LINEには、別に来たいなら来ればって。全然来てほしそうじゃなかったのに。そんな。うう、、、」

私はこんな時に涙を我慢できるほど大人じゃない。

「橘さん、、、大丈夫よ。きっと楓君は目を覚ますわ。信じて待ちましょう。」

加藤さん、というらしい。楓君がこの病院に来た時から面倒を見ているらしい。加藤さんが病室から出るときに彼の事を教えてくれた。

「楓君ね、1人称が『僕』なんだよ。なんだか、性格と全く違うわよね。じゃ。」

か、可愛い。あんなにツンツンしてる楓君の1人称が『僕』だなんて・・・。 それから私は毎日学校が終わると病院に行った。そのことをお母さんに言うと、手ぶらでいくのもなんだから、と言ってお菓子を買ったり、作ったりして、もっていかせてくれた。病院では、加藤さんと夜遅くまで話した。話題は楓君のことがほとんどだった。 楓君が倒れてから、2週間がたって、流石に心配になった。楓君、目を覚ましてよ。加藤さんも、私も、心配なんだよ。話したいこといっぱいあるんだよ・・・。私の目に涙が浮かんだその瞬間、

「橘、、、?どうかしたか。嫌なことでもあったのか。」

小さくて、かすれた声だったけどはっきりと楓君の声だった。

「楓君!!!よかったあ。うう、心配したんだよお。」

私は思いっきり楓君に抱きついた。私たち、付き合ってもないのに。

「おい!急に何すんだよ。お前頭大丈夫か。ちょっと待ってろ、加藤さん呼んでやる。」

いやいやいや、真面目に呼ばれたんだけど。楓君はナースコールを押した。そして間もなく、

「和ちゃん、楓君に何かあったの!?って楓君!」

「加藤さん、こいつ、急に抱き着いたりしてきて、頭やばくなったみたいなんで、検査お願いします。」

「真由さん違うんです!!」

必死に理由を説明する。私の顔はたぶん真っ赤だ。真由さんはクスクスとかわいらしい笑いだしたし、楓君の顔も赤かった。あ~もう!急に抱き着いたりしなきゃよかった。

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