第21話 秋の装い
秋になると、何を着ていいかわからなくなる。毎年のことだ。何故なら、生まれ育った北国は温かい日と寒い日しかなかったからだ。
そうは言っても東京に住んでそれなりに経つので、少しずつ『本州の秋』に対応できるワードローブは増えてはいる。増えてはいるのだが、本州の秋を読み切る心持ちがないのである。北国育ちにとって、寒いというのは命に関わるレベルの話だ。寒い=雪が降り、吹雪けば家の近所でも遭難することが可能なのだ。
上京してすぐはつい地元にいるときの癖で、厚着をしがちだった。寒くてコートを着たら、中はもこもこのセーターなのである。しかし東京の人は、コートを脱いだらお洒落なフェイクファーのついたキャミソールだったりするから驚きだ。寒いなら厚着をするべきだ、という本能の叫びに耳を塞ぎ、自分の感覚で言う肌寒い夏の日の服装に上着やストールを足すくらいが丁度よいらしい、とわかってきたのは割と最近のことである。朝家を出て寒いと思ったら慌てて上着を取りに帰っていたが、今はそれをしなくなった。肌寒いくらいが丁度よい。日中に太陽によって空気が温められるだけでなく、都心は人いきれや排熱で思ったより温度が高くなり、蒸し暑くなる。
そうした経験値を得るまでにだいぶかかった。今までの常識を捨てるのに時間がかかたっと言うべきか。九月に入ればもう秋でまもなく雪が降るという感覚だったので、秋の紅葉も九月だと思ったまま、関東であちこち紅葉狩りに出かけてはまったく紅葉していなくて失敗したことも屡々。都会の秋は十一月なのだ。十月も半ばだが、コートにはまだまだ早い。
薄い長袖に上着、でも満員電車では暑くなる。かと言って満員電車だからと冷房が入っていて、吹出口の直下だと寒くて堪らない。都会の温度調整は難しい。まだ半袖を着ている人もいて、中には自分と同じ寒がりなのか既にジャケットを着ている人もいて。いろんな服装の人が入り交じるのが、都会の秋の光景のひとつだと思う。
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