第11話 かわいいおばあちゃん
知らない人に話しかけるということ
道を訊かれやすいということは、多分よく言えば良い人そうに見えていて、
悪く言うなら押しが弱そうに見えているのかなと自分では思っている。
話しかけやすい、きっと答えてくれるだろう、という印象。
自分は人に道を尋ねた経験が無いのでよくわからないのだが、
自分に道を訊いてくる人の中で良い人は良い人だけれど、
嫌な人は訊くだけ訊いてお礼も言わず不満げに去っていくので、
単に舐められているんだろうなと感じることもある。
道を訊かれやすい人は痴漢にも遭いやすく、
一昔前なら写真を撮ってくれと頼まれる人なのではないだろうか。飽く迄も自分の経験則であるが。
そう言えば、遊園地などに行くと必ず一日三回は写真を撮ってくれと頼まれると言っていた人が、
眼鏡をかけ始めたらめっきり言われなくなった話を聞いたことがある。
良い人そうなオーラが、眼鏡でちょっと固くなったからだと思われるのだ。
それはさておき。
道を訊かれたら知らない場所でも自分のスマホを駆使したり交番へ訊いたりして
時間の許す限り調べて案内し、答えるようにしている。
それで「あっそう」とか「本当に?」と何故か疑われて不愉快な思いをすることも
わりかしあるが、そのせいで自分のスタンスを変えるということはない。
中には丁寧に礼を言ってくださる方もいらっしゃるし。
何故だか旅先で道を訊かれることも多く、自分も観光客なので全くわからないよ
と思いつつも答えられる範囲で答えている。
道を尋ねられるのではなく、世間話や質問を受けることもある。その中でも、嫌な思いをしたこともあれば、楽しくお話を終えられたこともある。
中でも、可愛かったなと思ってちょっと印象に残っている話がふたつある。
ひとつは、新幹線の中だった。一人旅でそこそこ混んでいる東北新幹線の中
携帯電話で文字を打っていたら隣のおばあちゃんに話しかけられた。
「本当に打つのが早いのね。どうしたらそんなに早く打てるの?」
一瞬いろんな回答が頭の中を過ぎったが、やはり回答を求めての質問ではなかったようで
おばあちゃんの方から事情を話し始めた。
携帯を持っていて使いこなしているなんて十分恰好良いおばあちゃんだと思うのだけれど、
ご自身では入力に時間がかかるのが悩みだそうで、
そんなものは慣れだと思うのだが、お孫さんが「返信が遅い」とご立腹なのだそうだ。
自分もパソコンを始めたときはタッチタイピングが出来なくて悩んでいたけれど
いつの間にかできるようになっていたので
やっぱり慣れだと思うので、やんわりとそんなことを織り交ぜつつ相槌を打っていた。
しばらくお話して、共感を得られて満足されたのか話は終わったのだが
あのおばあちゃんはお元気だろうか。
あれからもずっと使っていたとしたら、スマホもタブレットも使いこなす
おしゃれなおばあちゃんになっていると思う。
もう一人もやはりおばあちゃんで、旅先でATMによりお金をおろして
横断歩道で信号が変わるのを待っていたところに話しかけられたのでちょっと警戒した。
が、私がそのお財布を入れて持っていたフェイクファーのバッグが気になったのだそうだ。
「とても素敵なバッグだけれどどちらでお買いになったの?」と。
生憎地元で買った安物なもので、ブランドやサイトやショップをお伝えできるものではなかったのだけれど
お孫さんへのプレゼントにこんな可愛らしいバッグが良いかも、と思ったのだそうだ。
信号が変わるまでのほんの少ししかお話しなかったけれど、
その後良い贈り物が見つかっていたのなら良いのだが。
町中で素敵なバッグだなとか、この人すごいなと思っても、
実際にそれを声に出して話しかけることは
恥ずかしいとか、あとは今の時代声掛け事案にもなりかねず、変な目で見られる可能性も高いし。
でも、ちょっとした世間話は、できることならこの先の世も、あってもいいのではないかと思う。
今はまだ邪念が先に立って知らない人に話しかけられないけれど、おばあちゃんになる頃には
旅の恥はかき捨て的に勢いで若い人に話しかけることができるようになっているものだろうか。
もしそうなれたら、かわいいおばあちゃんだったな、と相手が後々までふと思い出すような
かわいい質問をする良きおばあちゃんであれたらなと思う。
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