第8話 常に刹那的に生き続けられるなら、それは 生涯幸せ なのかもしれない

今、NHKのドラマで『トクサツガガガ』というのをやっている。名言の連発だと聞いて興味が出て見てみて、漫画も途中まで読んでいるところである。


それでちょっと思い出したことがあるので、書いてみる。


幼稚園の頃、遊園地でキャラクターショーがやっていて


大好きなアニメのヒロインものだったので観に行ったのだけれど、


私は可愛くない子供だったので「あぁ、着ぐるみだなぁ」と思ってしまった。


グリーティングが始まって親に勧められても「別にあれ本人じゃないし」と思ったし


子供たちと一緒に並ぶのが恥ずかしいと感じて、


でも親の勧めを無碍に断るのも良くないと思う程度には


やっぱり可愛くなかったので、渋々並んでサインをもらい、握手をしてもらった。


薄い布の手袋越しに伝わってくるほど熱く汗ばんだ手だったのを、今でも覚えている。


戦隊モノや仮面ライダーにはご多分に漏れずはまり、


幼稚園の頃の夢は「大きくなったら◯◯戦隊のピンクになる」だった。


そう言えばいつ頃から番組を見なくなっただろう。


小学生の頃にはもう見ていなかった気がする。


中の人がいると気がついてショック、という類ではなかったはずだ。


なにせ、布やプラスチックなのに切られると火花が出るのに違和感を覚えるほど


可愛くない幼稚園児だったので。


(あの音と火花で特殊素材感を出す思い切った演出、とても素晴らしいと思う。


初めにやった人天才だと思っている)


幸い「男の子の見るものなのに」と言うような親ではなかったので、


変身ベルトや合体ロボットも買ってもらって男の子たちと一緒に遊んでいた。


だが、ランドセルを選ぶとき黒を選ぼうとしたときは止められた。


目立つ、いじめられる、普通女の子は赤だよ、といった理由だったと思う。


私は幼稚園まではピンク色やレースのふわふわしたものを好んでいたが


いつ頃からかそういったものが恰好悪いと感じるようになり


青や黒のものを選ぶようになっていった。


未だに私の事をよく知らない人からは、


似合いそう、と言ってピンク色で大きなリボンのついたものなどを


いただくこともあり、実は困ることがある。


周囲の人から見る私のイメージカラーは、ピンクや紫らしいのだが、


本人はそうした女の子っぽいものを避けるようになり


中学生になった頃には制服以外でスカートは穿かず、


ショートカットでジーパンを好んでいた。


女嫌いで、男に生まれたかったとずっと思っていた。


(これは今でも思わなくはないが、女は女でいいなと思えるようになった)


しかし変身ベルトを買ってくれた親でもこれは許してくれなかった。


恰好良いと思っている服装を、不良のようだと罵られた。


当時好きだったバンドも、目の敵にされてしまい


泣いて頼んだが一度もライブに行かせてもらえなかった。


グッズを家に置いていると、写真集を破られたり録画を消されたりするので


中学校の自分のロッカーに避難させていた。


今にして思えば人生において唯一人の、同じレベルでオタク話ができる


同じものが好きなオタク友達との付き合いも、


あの子の悪影響で娘が不良になったのだパターンで邪魔をされ、


疎遠になってしまった。


そう言えばあの子は元気にしているのだろうか。


一度だけ電車で会って普通に挨拶してきてくれたのだが、


私は親が彼女の親を通して何を言ったりやったりしたのかと思うと


後ろめたくてうまく言葉を継げなかった。


そんな不遇の中学・高校時代という暗黒の時代を抜け、


一人暮らしをするようになって、狭いワンルームにポスターを貼った。


堂々とCDをかけて歌っていても怒られない、正に自分の城だった。


そして、遂にチャレンジしたのがライブである。


初めは尻込みしていたのだが、バイト先の先輩に


「一人で行く人なんていっぱいいるよ、大丈夫。折角だから行けばいいのに!」


と言われて素直に感化され、早速次のライブはチケットを取って行ってみたのだ。


初めて行ったときは流石に緊張した。


でも、この周りにいる数百人の人たちがみんな同じ人が好きな仲間なんだという事実に、


それだけで胸が熱くなったし、生で聴く音は大変恰好良かった。


それ以降味を占めて、東京公演は必ず行くようになった。


因みに、先輩に「お蔭でライブ行けました」とお礼かたがた報告したら、


「本当に行くとは思わなかった、危なくない?」と大層驚かれた。


傍から見ればふりふりのドレスが似合う弱そうで小さい女の子が


たった一人でダイブもモッシュもあるライブハウスに行ったと聞いたら


確かに驚くかもしれないと今から思えば思わなくもない。


が、あなたが行けって言ってくれたのに。笑


このバンドについてはネットで知り合った人で気の合う人が


ひとり、ふたりはいたのだが、住んでいるところも遠かったし


なかなか自分と同じテンションで好きな人というのは限られてしまうもので


一年ほどで2人ともこのバンドのファンを卒業してしまった。


当時今くらいSNSが浸透していれば、もう少しゆるゆるとでも


付き合いが続いていたかもしれないが。


未だに、自分のオタクに付き合ってくれる友人はいるが


同じ深度で沼にはまっている友人がほぼいないので、


リアルな友人関係で誘い合ってオタ活ができる人は大変羨ましい。


一緒に推しを見て、その後語り合うというのはやっぱり最高だと思う。


中学生の頃、マイナーなバンドが好きな友人同士で


掲載されている雑誌を割り勘で購入し、


それぞれの自分の推しが載っているページを破り取って分けあっていたことがある。


大人になった今、雑誌を一冊まるごと買うくらいの甲斐性はあるわけなのだが


やっぱり一人で買って読むよりも、みんなで一緒に楽しんだ当時の方が


楽しかったような気がする。


ライブやお芝居に一人で行くのは慣れたし一人の気楽さもあるけれど、


帰り道はこの感動を誰かと語り合いたい、


誰彼構わずツアーのショッピングバッグを持っている人を捕まえて


感想を言いたいし聞きたいと思うことはしょっちゅうだ。


年齢を重ねれば重ねるほどオタク仲間を見つけるのにはいろんなハードルがある。


オタク活動自体がそもそも大変だったりもするわけなのだけれど、


好きなものは好きなのだから仕方ない。


良い歳してみっともないと言われようとも、適正年齢のときには


あのコンテンツもこのコンテンツも存在しなかったのだから、


今を楽しむのみなのである。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る