第2話 サンタクロースは誰なのか

 小さい頃、何故か家にはスケートボードとローラースケートとアイススケート靴があり、どれも嗜んだことがある。


 幼い私のローラースケートは、運動靴にはめるタイプのプラスチックのもので、ある時転んだ時にパーツが折れてしまった。


 落ち葉の積もる季節だったことは覚えている。


「じゃあクリスマスにはローラースケートをサンタさんにお願いすることにする」


 と言ったら、母が


「でもローラースケートは夏に使うものだから、今から頼んでももしかしたら無理かもしれないよ?」


 と言った。


 今にして思えば、確かにその通りなのである。内心焦っていたであろう両親には大変申し訳なかったが、サンタさんだからきっとなんとかしてくれるよという謎理論で私はローラースケートをその年のクリスマスに所望したのだ。


 我が家は海外出張の多い父が、夜中に空をサンタさんが通るので私の欲しいものをその時サンタさんに叫んで伝言してくれることになっていた。満天の星空の下、船の甲板からサンタさんのソリに向かって父が叫ぶと、サンタさんは「わかったよ」と手を挙げてくれると言うのだ。美しい絵本のような光景が私には想像できて、それを素直に信じていた。サンタさんと知り合いである父を誇らしくも思ったものだ。


 だから両親は娘の欲しいものを調べることは苦労しなかっただろうが、秋口にローラースケートと言われてさぞや困ったことだろう。確か、リカちゃんハウスやシルバニアファミリーなどを薦められ、「第二希望も伝えておいた方がいいよ!」とアドバイスも受け、渋々考えて伝えた気がする。


 そしてクリスマス。当時ネットショップや検索も今のように簡単でありふれてはいなかった時代に、私の家に来てくれたサンタさんはローラースケートを届けてくれたのだった。包み紙を剥がしたときに見えた箱が第一希望のローラースケートだったときの嬉しさといったら。


 しかも今度はプラスチックではなく金属製のしっかりした作りのローラースケートだった。


 サンタクロースはいるのか。


 大人になった今、やはりサンタクロースはいると私は思っている。


 外国に本当にいるんだよ、という回答ではなくて、子供が期待するのは多分トナカイの引くそりに乗って夜空を飛び回るサンタさんだと思う。


 私には、空を飛べるソリが本当にあるかはわからない。けれど、サンタクロースはいる。


 私が好きな、演劇集団キャラメルボックスの成井豊さんが、エンジェル・イヤーズ・ストーリーという二〇〇九年のクリスマスツアーの時、パンフレットにこんな言葉を書いていた。


「サンタなんていないんでしょう」と子供が言ったときに、


 "堂々と子供の目を見据えて、「今まで隠してて悪かった。実は、パパはサンタクロースなんだ」と言ってほしい。だって、あなたはあなたの子を心の底から愛していて、だからプレゼをあげたんでしょう?"


http://www.caramelbox.com/stage/angel/


 実はサンタさんじゃなくてお父さんだったんだ、とか、いやサンタさんはフィンランドにいるんだよ、ではなくて、「お父さんがサンタなんだ」というのはとても素敵な言葉だと思うのだ。


 サンタはいると子供に夢を見させようとするのは大人のエゴでただの嘘だという言葉も目にすることがある。


 けれど、「自分がサンタだ」というのは紛れもないひとつの真実だ。


 良い子にプレゼントを贈りたい、プレゼントを贈ろうとする人たちは、それは立派にサンタクロースの”仕事”をこなしているわけなのだから。


 誰もが誰かにとってのサンタクロースなのだと思う。


 サンタさんから贈り物をもらったことがある人はきっといつしか自分がサンタクロースになり、誰かへ贈り物をするだろう。自分自身に贈り物をすることもあるかもしれない。


 メリー・クリスマス。平成最後のクリスマスも、みなさんにとって良き日でありますように。

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