通じない日本人の『残念中文』

「中国語なんて漢字なんだ! こんなもの筆談すれば誰だってできるようになる!」

 某予備校のナントカ河内先生のような勢いで中国を渡り歩こうと考えているそこのアナタ。

 残念ながらいくら語彙を共有しているとはいえ日本語と中国語はそもそも全く違う言語であるので、漢字を書いても通じない言葉も結構ある。

 今回はそんな高校のときに習った漢文の知識でいけんんじゃねとか愚かなことを考えてしまった日本人が使いがちな中国では通じない漢字語を取り上げたい。中国語が全く話せなくて筆談するしかないにしても、ちょっと気をつけるだけでグッと通じやすくなるかもしれない。


 ●高校


 「高校」とか「高等学校」と書いてしまうと、中国人には「大学」のように思えるのではないか。中国人でも知識として日本語で「高校」が中国語でいう「高中 gao1zhong1」の意味だと知っている人もいるかもしれないが、中国語では「小学校」は「小学 xiao3xue2」、中学は「初中 chu1zhong1」、高校は「高中」である(ちなみに大学 da4xue2は同じ)。

 台湾だと「初中」が「國中」になるなど多少言い方が違う。


 ●水道


 中国人は「水道」とか「水道水」という言葉を見ても、ハテ、なんのことやらと首を傾げるばかりだと思う。中国語で水道水は「自来水 zi4lai2shui3」と言う。他にも蛇口は「水龙头 shui3long2tou2」という。水の龍の頭とは強そうな響きである。


 ●ふく


 中国人はこの漢字だけを見せられても「?」という感じになってしまうと思う。なぜなら中国語では「服」は普通「衣服 yi1fu0」と言い、「服 fu2」単独だと「従う」とか「服する」という方の意味になってしまうからだ。ちなみに「洗濯」も中国では通じず「洗衣服 xi3yi1fu0 服を洗う」と言う。洗濯機も「洗衣机 xi3yi1ji1」になる。


 ●家族


 中国語で「家族」は「家人 jia1ren2」と言い、「家族」と言うと婚姻と血縁で結ばれた親族関係というようなヒジョーに堅苦しい響きになる。他にも「息子」は「儿子(児子) er2zi0」だし、お兄さんは「哥哥 ge1ge0」、お姉さんは「jie3jie0 姐姐」だったりして日本語と違うものが多い。

 そういえば、中国語の親族を表す語彙はとても豊富でいまだに使いこなせる気がしない。「爷爷 ye2ye0 父方のお爺さん」と「姥爷 lao3ye0母方のお爺さん」を言い分けるとかはまだしも、「(自身の) tang2jie3 堂姐」「(自身の) biao3mei4 表妹」とかになってくるともはや意味不明である。私自身、中国人と話しているときに相手が「私の堂妹が……」とか「俺の表哥が……」とか言い出すと正直今でも混乱する。


 ●映画


 まあ知ってる方も多いかもしれないけど、これも通じません。中国語では映画は「电影 dian4ying3」、テレビは「电视 dian4shi4」、パソコンは「电脑 dian4nao3」である。

 今まで紹介したものとは逆パターンだが「汽车」は中国語で「汽車」ではなく「車」の意味で、「蒸汽机车」とか「火车」が汽車の意味になる。


 ●欲(ほしい)


 北京に旅行しに行って「我欲北京鴨」とか書いてる日本人観光客いそうだな……。

 残念ながら現代中国語の「欲」には「欲しい」という意味ではあまり使われない。欲しいと言いたいなら「要 yao4」になり、「我要北京烤鸭 wo3yao4Bei3jing1kao3ya1 北京ダックがほしい」なら一応通じるだろう。「来XX lai2XX」という感じで「来」の後ろに目的語をつけて「~を下さい」と表現することもできる。

 他にも「我这个」とかいう間違いも見たことがあるが、「想 xiang3」は「~のことについて考える」、英語でいうmissのような意味合いがあり、「想家 xiang3jia1 ホームシックになる、家のことを想う」という感じでは使われるもののこちらも「(名詞が)欲しい」という意味はない。おそらくこれは「我想吃~ wo3xiang3chi ~が食べたい」という感じで「想」を動詞の後ろにつけてwant to doという表現ができることから生じた誤用だろう。


 ●行(いく)


 「行」という字は普通話(北京語)ではxing2とhang2という二種類の発音がある。Xing2は「いい」とか「大丈夫」という意味になり、「行!」と単独で言えばオッケー! という意味になってしまう。Hang2は主に「銀行 yin2hang2」などで用いられる。

 中国語で「行く」と言いたいのなら「去 qu4」か「走 zou3」で、『博物館に行きたい』なら「我要去博物馆 Wo3xiang3qu4bo2wu4guan3」になる。


 ★おまけ


 日本語において単独一文字で訓読みされる漢字の半分ぐらいは現代中国語としては使われなくなり、熟語でしかお目にかからないため、日本人が通じるだろうと思って「我腹痛」とか書くと中国人も分かりはするもののかなりおかしく感じられるだろう。以下、例を挙げる。


 寝 = 睡 shui4(睡觉 shui4jiao4) 「寝室 qin3shi4」とかはある。

 食 = 吃 chi1 「食堂」は「食堂 shi2tang2」

 飲 = 喝 he1 「飲食」は「饮食 yin3shi2」

 泣 = 哭 ku1 「哭泣 ku1qi4」なら使う。

 恐(恐い、怖い) = 怕 pa4 「恐怖 kong3bu4 恐い」は使う。

 待 = 等 deng3 「等待 deng3dai4 待つ」は使う。 

 腹(お腹) = 肚子 du4zi0 「腹泻 fu4xie4 下痢)」はあるが、通常「拉肚子 la1du4zi0 腹を下す」

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