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 うららかな日差しが降り注いでいる。

 けれどもまだちょっと寒い春休みの終わり。

 平日午後の半端な時間に家を出たわたしは、いつも通学に使っている路線の、けれど二年間一度も使ったことのない駅に降りた。

 駅舎はわたしの最寄り駅に比べて二回りは大きい。乗降する人も多いんだろう。

 足元を気にしながら階段を登り、案内板を見ながら改札へ向かう。

 Suicaを出そうとすると、改札の向こうにもう花音がいるのが見えた。

 けれどもおかしなことに花音はわたしに気付いていない。通路の奥を見ている。


 改札を抜けるとわたしは立ち止まり、真横にいる花音に声を掛けた。

「花音」

「はい? え? ゆかり? ええーっ! 誰かと思いましたわ!」

 その反応にわたしはヘソを曲げる。

「花音さあ、一応わたしたち……こ、こ……」

 恋人同士、の一言がどうしても言えないわたし。

 ホワイトデーの再会後、わたしたちは晴れて付き合うことになったわけだけど。いまだにわたしは感情表現下手くそなままだ。それはさておき。

「とにかくさ、この距離で話しかけられるまで相手に気付かないってどうなの?」

 しかもわたしは正面から来たのだ。花音を見つめて微笑みながら。なんだか無視されたみたいで面白くない。

 もしかしてからかわれてる? と思ったけれど、残念なことに花音はガチのマジで気付いてなかった。

「ごめんなさい!」

 花音は大げさな動きで頭を下げる。

 長い髪がふわぁっ、と広がって、周囲にいい香りを振りまいた。

 わたしはこの匂いがするだけできゅんきゅんしてしまう。今すぐ花音を抱きしめたくなってしまった。けれど公衆の面前なのでぎりぎり理性を働かせる。ついでに通行の邪魔にならないように、花音を促して場所を変える。

「言い訳する訳ではないのだけど……」

 花音は言った。

「今日のゆかり、かわいすぎてまるで別人だから」

「っ」

 褒められて嬉しい。なのにわたしは、頬が緩むのを見られまいとそっぽを向き、口をとがらせこう言うのだった。

「ふーん。普段のわたしはかわいくない、と」

「そんなことありませんわ。ゆかりは普段もかわいい。いつでもかわいい。何しててもかわいい。存在全てがかわいい」

「……そろそろ止めて。恥ずかしくて死ぬ」

 わたしは泣きそうになりながら懇願した。あっという間に攻守逆転。

 花音のこの、思ったことを口にするのにためらいなしのパワーってどこから生まれるんだろう。聞けば絶対「愛を語るのに理由が必要?」とか言ってくるんだろうけど。


「で、わたしだって気付かなかった言い訳の続きは?」

「言い訳じゃないのに……」

 と花音はちょっと拗ねてから、視線をわたしの腰……の下に向けた。

「だって、スカートを履いてるんですもの。それにトップスもお洒落」

 確かに今日、わたしはスカートだ。それでハイソックスを履いて、いわゆる絶対領域をちょっとだけ見えるようにしてる。ついでに上はボーダー柄のカットソー。これに春ジャケットを合わせてあるけど割と寒い。

 ちょっと寒いかな、とは家を出る前に気付いていた。

 けれどわたしはあえて着替えずにそのまま来た。

 花音を喜ばせたかったからだ。

 それが何? 「こんなにお洒落なのは私の恋人のはずがありませんわ」だとう?

 ヘソの一つも曲げるのは当然というものである。

「ごめんなさい。許して。何でもするから。足も舐める」

「……それは花音がしたいことでしょ」

 わたしは呆れ半分に言った。

「でも本当にかわいいわ、今日のゆかり。うん。ゆかりだと気付いてから見るとさらにかわいい。こんなにかわいい子が恋人だなんて誇らしいわ」

 調子のいいこと言っちゃってまあ。

 でも、それで気分よくなって許しちゃうわたしも大概だ。

「これからは一目でわたしと気付くこと」

 そう言うとわたしは花音の手を取った。

「誓いますわ」

 指を絡め、肩を寄せ合い、うふふあははと笑いながら駅を出る。

 頭の中はもうすっかり春色なわたしたちだった。


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