第11話 聖少女VS蔦の魔獣(分離体)

 (押して参る…我、一日の鍛錬を千日分の鍛錬とし、十日の修練を万日分の鍛錬とする…)


 そう、身体能力強化の固有術式コードを思い浮かべ、アムルは密集する蔦へと疾走した。


 シュルルッ! シュルルルルッ!!!


 (予想通り!)


 アムルの行動に大量の蔦は反応し、アムルを捕らえるべく襲いかかってくる!

 だが、アムルはそうなる状況をあらかじめ予想し、行動していたのである。


 伊達に和夫が蔦に捕らわれた後、すぐ助けずに観察を続けた訳ではない。


 別にアムルが非常という訳ではなく、敵の情報収集が大事なだけだ。


 古事記にそう書いてあるかは知らないが、アムルの知る孫子の兵法には書いてあった。


 とりあえず、和夫を助けるまでしばらく時間を置き、地上に出ていた魔物のスペックをと推し量っていたのである。


 果たして、地上に出ていた大量の蔦は、見事に新たな獲物の全身へと巻き付き、早速、そのまま地中へと引きずり込もうとした。


 (やらせない!)


 だが、アムルは魔獣の引きずり込み攻撃をあっさりと無効化する。身体強化した聖少女の身体は蔦の力を容易に上回った。

 アムルは、少し(身体強化したアムルの基準)両脚に力を込めただけで、魔獣の引きずり込みを阻止してしまう。


 「飛翔!」


 タンッ!


 余裕の表情で微笑するアムルは、そのまま飛行モードへと移行。

 天空を見上げ、大地を蹴る!


 我が身に魔獣蔦が巻き付いた状態のまま天空へと舞上がり、地中の魔獣本体を逆に引きずり出し、外気に晒すつもりだった。

 余談であるが、アムルはじめ聖少女は全員飛行はデフォルトで、空を飛ぶのに特別な詠唱などは必要としない。


 ボゴッ! ボゴボゴゴッ! ボゴボゴボゴコッ! ボコボコボコボコッ!!!!


 周辺の大地が盛り上がり、その後、蔦に繋がる根が地上に露出。然る後、土塊を振り撒きながら、蔦と根の塊は天空へと舞上がった。


 ブチッ!


 (!? しまった!)


 「チィィッ!」


 アムルが、途端に軽くなった蔦の魔獣に気付いて舌打ちした!


 アムルは、狡猾な蔦の魔獣の本体が、蜥蜴の尻尾切りヨロシク、我が身の一部を切り捨てたと気付いたのである。


 (やはり魔獣は簡単に始末できる敵ではないか!)


 とはいえ、切り捨てられた蔦の魔獣分離体を、このまま放置する訳にもいかない。


 いばらの城で手に入れた事前情報によれば、魔獣の心臓は如意宝珠というものだ。

 せっかく本体を倒したのに、分体を見逃していて復活された。

 そんな事態になったなら、悔やんでも悔やみきれない。


 (螺旋!)


 「はあっ!」


 アムルは一声気合を発し、ただ速いだけの飛行に螺旋軌道を加え、遠心力を持って絡み付いた蔦を引き離しにかかる。


 この螺旋軌道には、さしもの蔦の魔獣分離体も堪らない。


 遠心力によって次第に緩み、引き剥がされていく蔦と根で構成された物体。

 次第に物体は一方向へと絡まり丸まっていき、ジャイアントスイングを仕掛けられたプロレス選手よろしく、最後に空中へと弾き飛ばされた。


 (まずは、こいつの止め!)


 「雷霆招来!」


 アムルのセーラー服の襟元に差し込まれ、保管されていた術符の一つが、聖なる力を流し込まれて妖しく光輝いた。

 

 発動した術符は、その名の通りに雷を操る術符だ。


 ………ゴロゴロゴロゴロ………


 カッ!


 ピッシャアァアアアア―――――ンンン!!!


 ゴゥッ! オオオッ!!!!


 すぐさま高空の雲海へと作用し、多量のプラス/マイナスの電荷が大気中に発生していった。

 その後、励起状態となったマイナスの電荷が、雷となって魔獣分離体へと降り注いでいった。


 哀れ。一億ボルトのエネルギーを受けた分離体は、大気と共に一瞬でその身を引き裂かれる。

 ボロ切れより酷い状況となったその破片は、熱波を受けて発火。そのまま大地へと向かい燃えながら落下していった。



 ◇ ◇ ◇


 「何が………何が起こったんだ?」


 土が掘り起こされ荒れ果てた地上では、一人、和夫が空を見上げて呆然としていた。何とか頭の中の情報を整理し、何が起きたのかを理解しようとする。

 しかし、あまりに突拍子もない事態のため、その知的作業は一向に進まなかった。


 「あなた!」


 そこに、空中から聖少女アムルがまた飛来してきた。


 両腕のない空飛ぶ少女の再来訪に、言葉もなく見守る和夫。


 (綺麗な子だな。天女? 魔女? それとも魔法少女ってヤツ?)


 漠然とそう思う和夫。


 しかし、そんな和夫の置かれた状況など知ったことではないアムルが、言葉を続けた。


 「魔獣の本体はまだ倒していないの! 逃げられた!」


 え? え? え? え?


 目の前の少女が何を言っているか、さっぱり理解できない和夫である。


 「死にたくなかったら、キャンプ場まで死ぬ気で逃げて!」


 !?


 さっぱり事情は理解できなかったが、この場から逃げなければと空気を読んだ和夫は、残されていた体力を総動員して駆け出した。



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