第10話 聖少女アムル参上!

 (!?!?!? 何だ!何なんだ! 一体!?)


 「うわああああぁ!」


 なぜ自分が人でもなく獣でもないに襲われているのか?


 その訳も解らず、和夫が混乱して叫ぶ。


 そして、自分が置かれたこの大理不尽から逃れようと、和夫は必死に全身に巻きつこうとする大量の蔦を振り払う。


 「くそっ! くそっ!」


 上半身と両腕を前後左右に振り回して後退し、和夫は伸びる蔦から逃れようと激しく藻掻く。

 しかし、幼女の生皮を被ったから距離を取っても、和夫は絡まる蔦から逃れることは叶わなかった。

 和夫が暴れれば暴れる程、さらに蔦は伸びてくる。

 ついには、幼女の生皮を引き裂き、より多くの蔦が伸びて襲ってくる。


 「クソッ! 離れろ! このっ! 何でっ!」


 和夫が距離を取れば取るほど、絡まる蔦はより長く伸び、決して振り払うことは叶わなかった。

 ただただ、蔦の長大さを示す結果となるだけ。和夫の置かれた状況はまったく改善しない。

 むしろ、から伸びる蔦の勢いは激しくなり、ついには後退していた和夫の身体を穴の奥へと引きずり込もうと、一層、伸ばした蔦の力を強めてくる。

 傍から見れば、地面から生えたタコやらイカの足が、獲物を捕まえ穴の中へと引きずり込もうとしている………そのように見えた。


 「ぐぅ…ううううっ!?!?!?」


 激しく全身を締め付け、穴の奥へと引きずり込もうとする蔦の勢いに、和夫は徐々に体力を消耗していった。

 両手両足の力は弱まり、もう後退することも儘ならない。

 全身が締め付けられることにより頭に血が登り、必死な表情の額には弾の汗が浮かぶ。首元から頭部にかけては全体が真っ赤に染まっていた。

 口からはハアッハアッと、荒い息遣いで熱い吐息が漏れる。


 (!?!?!? 駄目だっ…蔦を引き剥がすには俺だけじゃ力が足りない!)


 もはや、個人の力で蔦を振り払うことは不可能に見えた。


 「誰かっ! 誰かっ! 助けてくれっ!」


 しかし、和夫は肉食動物に襲われた草食動物(抵抗しないのではなく、頚椎などの急所を破壊され抵抗不能状態)のように大人しくはしなかった。

 一人で逃げられないなら、誰かに頼ろう。

 和夫は、縋る思いで助けを求めて叫ぶのだった。


 「頼むっ! 誰かっ! 誰か助けてくれっ!」


 …………


 しかし、返事はない。


 小鳥の羽搏く音すら聞こえず、ただただヒュー、ヒュゥゥゥーと、強まる風の音のみが周辺に響くのみ。


 その事実に和夫の顔面が引きつる。


 (こんな僻地に助けは来ない。俺は、この訳の分からないに………」


 絶望が和夫の精神を支配し、全身から急速に抵抗力を奪っていく。ズズ……ズズ……ズズズ……と、その身体を絡め獲った蔦が、穴に向けて引きずっていった。


 (嫌だっ! 俺はっ! こんな所で死にたくないっ!)


 「誰かっ! 誰でいいっ! 助けてっ! 助けてくれぇっ!」


 最後の抵抗と、和夫はあらん限りの力を込めて必死に叫んだ。こんな所で終わりたくないとの思いを込めて。




 ヒュー ヒュゥウウウウウ………


 ………ゴロゴロゴロゴロ………


 発生した雷音が、ゴロゴロと遠くから聴こえてくる。


 だが、それのみ。


 和夫が期待する人の声は聞こえてこない。


 (………万策尽きた………)


 (………素直に山を下りておけば………今更…遅い………)


 そう、自分の置かれた境遇を和夫が嘲笑した瞬間のことであった。


 カッ!


 ピッシャアアアアァ―――――ンンン!!!!


 ブシュゥウウウウウッ!!!


 至近距離に落ちた雷によって和夫に巻き付いていた蔦がまとめて切り裂かれ、直撃した蔦部分が一億ボルトの電流によって焼かれていた。

 地面へと直撃した雷撃はそのまま地表に沿って拡散。

 和夫の身体に被害が及ぶことはなかったのだった。


 ドサッ。


 絡み付いた蔦先を巻き付けたままの和夫は、自由になった反動で地面に尻もちを搗く。


 そのまま、訳も解らず呆けて地面を見る。


 すると、そこには人影が見え、両袖とスカートの影が揺れていた。本体が風に吹かれてはためき、影も同様に揺れているのだろう。


 ハッとして顔を上げる和夫。


 そして見たのだ。


 両腕のない薄桃色の髪の少女が、絡まり合う蔦の化け物と和夫の中間地点へと、空中からゆっくりと舞い降りるのを。 

 


 

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