第9話 幼女の生皮を身に付ける魔獣
………ぇーん…えーん…えぇーーーーん………
!?
再び聴こえてくる人間の幼子らしき鳴き声。
声が聴こえてくる正確な方角を知ろうと、耳を澄ます和夫。
「………こっちか!」
人間…おそらく幼女…の声が聴こえてくる方向を、沢の上流と聞き定めた和夫は、濡れて滑る場所を避けて速足にそちらへと駆け上がっていく。
踏まれた地面から飛沫が溢れ飛び、雫で満ちた白山一花の花弁へと当たった。
そんな可憐な花をその場に残し、和夫は沢の奥へと向かって行った。
………えーん…えーん………
「おーい! 今行くぞー!」
声を張り上げて、自分が近付いていることを知らせる和夫。
(まさか本当に見つけるなんて! 九割九分あり得ないことだと思っていた!)
そう、自分で考えたことの異常さに気付かぬままに、和夫は幼女が居ると思しき方向へとひた走る。
なぜ、単独行動している時に幼女の鳴き声が聴こえてくる。
なぜ、九割九分あり得ない幼女発見という事態が起きる。
なぜ、何日も見つからない幼女が、人気のない台風の日となって元気に泣いていられる。
予想外の僥倖に冷静ではいられない和夫は、物事を疑うことを忘れ、幼女が助けを待つと思しき方向へと一直線に向かった。
山中が何が起こるか分からない危険地帯であるということも忘れて。
グイッ!
!?
(うわっ!)
どしゃっ!
ヤバイ!と思った時にはもう遅かった。和夫は足元に伸びる蔦の一本に足を取られ、盛大に前方へと倒れ込んだのだった。
「痛っ!」
上半身に着込んでいたダウンジャケットの厚みと、地面の草のクッションに助けられ、胸に若干の衝撃を受けただけの和夫。
外傷はなかったが、和夫は痛みに貌を顰めた。
しかし、大の男がそれしきのことで地面に倒れて呻いていることなどあってはならない。
そう思い直して和夫は身体を起こし、より沢の上流へと視線を移した。
(居た! 見つけた!)
その奥には、確かに座り込んだ幼女らしき小さな身体が見て取れた。和夫は身体の痛みを一瞬で忘れ、そちらへと近付いていく。
「大丈夫か! 今助ける!」
(そうだ! お腹が空いてるかな? チョコを水で溶かせば弱った胃でも受け付けるか?)
そんなことを考えながら、和夫は声を掛けながら近づいていく。
!?
そして、より幼女の詳細な姿を確認できる距離まで近付いた和夫が驚愕の表情となり足を止めた。
え? 何だこいつは!?!?!?
それは幼女ではなかった。幼女の皮らしき物体を纏った、人型をした蔦のオブジェであった。
その、 俯いていた幼女らしき物体の首部分がズルルッと動き、頭部が和夫のいる方向を向く。
その瞳孔に眼球はなく、眼窩部分より、蔦の触手がカタツムリのヤリのように伸びて揺れた。
それだけではない。
獲物が掛かった故に幼女の皮膚は無用と、次々と蔦の触手が内側から皮膚を突き破って伸び、和夫を絡め獲ろうと蠢いた。
その動きに迷う様子はなく素早い。
「うっ、うわあああぁ!」
自分に巻きつき、締め付けてくる感覚を知覚し、和夫が恐怖の叫びを上げた。
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