第12話 魔獣に捕食されるということ
…ゴゴ…ゴゴゴゴ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………
和夫がその場から駆け出すと同時に、地下から地鳴りが聴こえてくる。
それも束の間、ピシッ!ボコッ!という異音が響き、大地が隆起してひび割れていった。
その地割れによって、所々に大穴、小穴が開いていく。
その内部へと、意志なきもの、力無きもの、その他、様々なものが落下していった。
近くを流れる沢からは、地の底へと大量の水が流れ込み、水流によって削られた土塊と共に、水辺の野草、高山植物が落下していく。
千切れた花弁や葉は宙を舞って、台風接近による強風により、何処かへと運ばれていく。
まるで山野が貯水量の限界を迎え、土砂が一気に崩落していく………そんな惨い状況を再現するような、救いようのない様だった。
その後、流れ込む水の代わりのように、ズボォッ!シュルルッ!シュルッ!と、大量の蔦が穴の底から次々と伸び、地上へと姿を現す。
それらが向かう先は、周囲に生えた太い幹を持つ木々だった。
蔦の触手はシュルルル!と、それらに次々と絡み付き、まるでギターの弦のように、ピンッと張り詰めていく。
ギギッ…ギギギッ…………ギギギギッ…………
続く異音。
穴の底に存在する大質量の何かが、蔦を使って木々へとその自重をかけ、己を引き上げようとしていた。
その道具にされた木々が、蔦によって締め付けられ、発した異音だった。
その大量の蔦を腕のように利用し、それはその身を地上へと引き上げ、
異形の姿を地上で待つものに見せ付けようとしていた。
誰に?
アムルに!
「!? あれは!」
その姿を視認し、アムルが声を上げる。
(巨大な植物らしき球根………内部が透けて、人影のような姿が見える…あれが本体なの!?)
少しでも多く情報を得ようと、上空から目を凝らしながら接近するアムル。
その姿と周囲に流れる力の波動を、より近くで感じ、見極めるためだった。
アムルたち聖少女は、聖なる力や魔の力、その他の力の波動を認識し、脳内で可視情報へと変換することが可能だった。
それで相手の実力もある程度計れるのである。
つまり、常人には見えないものが見え、感じることが可能なのだ。
また、戦闘で勘の鋭くなった戦士たちの如く、ある程度場の雰囲気を読み取ることで、敵が何を考えているかを知ることが可能であった。
(人に似てる………そうか…魔獣は様々なモノを取り込めるんだった。襲った幼女の身体を核にしたのね。同じ場所に如意宝珠らしき力の反応もある)
敵である魔獣は、巨大な身体とは別に、如意宝珠を運び出せる小さな身体をも手にしていた。
そのお陰で別々に移動することも可能になったのだろう。
だが、それだけに飽き足らず、新しい身体を得ようともした。
だから、三島和夫まで襲ったのだ。
アムルは、そう状況を判断した。
(でも………そのためにデメリットもあったようね。あの魔獣、新しい身体の思考に引っ張られているのね。でなければ、私の前に新しい幼女の身体や、本体の宝珠を晒すはずもない)
その通りであった。
蔦の魔獣は幼女の身体を得て、その脳内情報まで手に入れていたため、不要な好奇心まで持つようになっていた。
幼女の身体を得たことで、一介の植物の魔獣から人に近い魔獣へとランクアップしていたのである。
しかし、それがメリットだけとは限らない。
人として未熟な幼女を取り込んだ蔦の魔獣は、幼女的な好奇心に抗えずに、魔法少女のようなアムルの姿に惹かれ、一目見ようと地上まで出てきてしまったのだ。
そう。
自分の核である如意宝珠が、幼女の身体と共にあることも失念して。
「何はともあれ勝機!」
(形態変換符! 両翼展開!)
魔獣の都合など知ったことではないアムルは、この好機を生かすべく先手を打つ。セーラー服の襟元(と胸の間)に保管していた術符束のうち、その二つへと聖なる力を流し込んだ。
すると、二つの術符はセーラー服の内側に潜り込み、アムルの両腕部分へと、それぞれ移動。
切り落とされていた両腕の代わりとなる、長大な薄桃色の翼へと形態を変換せしめた。
セーラー服の両袖を内側から突き破り、バサリッと一対の翼が姿を現す。
新術を発動させたアムルは、有翼の聖少女となったのだ。
その姿の意味は、従来の飛行方法にプラスし、巨大な翼での羽搏きによる方向転換、推力増加。並ぶに揚力増加による安定性を得るという、高速戦闘用フォームであった。
(さらに、焦熱符 爆裂符、裂空符、準備!)
(期せずして得た勝機、存分に活かされてもらう!)
「覚悟!」
近い将来、最愛の人を奪った魔獣と遭遇し、死合うことになるかもしれない。そのために一度、別の魔獣と戦い、勝利しておきたい。
そんな目的を果たすために、新フォームとなったアムルは、蔦の魔獣(本体)へと攻撃を開始した。
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