余るガム
「はぁ~あ、余るガム~」
朝、登校してきたクラスの友達はいきなりそんなことを言った。
自分の席で本を読んでいた私はその意味について考える。
「なに、アマルガム? 合金だっけ?」
「違う違う。そっちが何それって感じ。いや、ガムが余るなって。ほら、これ」
彼女がスクールバッグから取り出したのは、良く見かけるボトル式の容器だ。ガムに詳しくはないので、それが有名なものかは分からない。
「食べてみ」
「じゃあ遠慮なく」
渡された容器から粒型のガムを一つ取り出し、口に放り込んだ。噛み締めた瞬間、内から溢れ出したその味わいに驚く。
「甘っ!? グラブジャムンか何かか!? 甘ったるいガムで甘るガム!?」
激烈な甘味に思わず大きなリアクションを見せてしまう。それを予期していたらしい彼女は笑っていた。
「あはは、珍しいよねぇ。大丈夫、太りはしなかったから!」
「それはそれでちょっと……人工甘味料が特盛ってことじゃない……?」
私はパッケージの成分表に目を通すが、特に怪しいものは見受けられなかった。謎だ。
「ということで、あげる」
「何がということなのか……まあ、いいけど」
一つ食べてみた感想としては、案外癖になるものだということ。甘すぎるガムだけど、後でまた食べたくなるような強い訴求性が感じられた。
それから、私はもらったガムを気が向いた時に食べていた。
初めの内は体が求めてしまうような感じだったが、十粒ほどを食べたところで流石にもういいかなという気分になっていた。
やっぱり強烈な味は飽きやすい。日常的に食べるならもう少し淡い味の方が良いのだと思う。
「確かに余るなぁ、このガム」
自室の椅子に座っている私は、机の上に置いていたボトルを軽く振ってジャラジャラという音を聞き、蓋を開けて中も確かめた。
「全然減ってない……何なら増えてる気すらする……」
気のせいだろうか。初めにどのくらい残ってるか、ちゃんとは確認してなかったけども。
それにしても、もう十分だと感じる。これ以上は食べようという気にまったくならない。
「明日、私も誰かにあげよっと」
普段の私ならそんな人に押し付けるような行いに抵抗を持つはずだが、不思議と躊躇いはなかった。
むしろ、誰かに背中を押されているような気すらした。誰か? 誰だろう……。
そう言えば、このガムをくれた彼女はどこで買ったのだろうか。こういったガムを好む姿はこれまで見たことなかったけれど。
案外、彼女も誰かにもらったのかもしれない。……いや、間違いなくそうだと確信できる。なぜだか、そんな気がする。
今は彼女のことがずっと近く感じるように思えた。他にも、もっとたくさんの見知らぬ人たちが、私と共にあるような……。
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