日めくり窓

 日めくり窓、というものが巷で流行っているらしい。

 何でも日めくりカレンダーの如く、窓の外に広がる景色が毎日変わっていくらしい。

 朝起きてカーテンを開ける時やふと窓の外を眺める時、いつも同じ光景では飽きてしまう、という人に向けた商品のようだ。

 それは私も感じていたことだったので、購入してみることにした。


 翌日、届いたそれは窓に設置出来るプロジェクターのようだった。電源に繋ぐと、PCのデスクトップ画面にありそうな自然の景色が、窓枠から大きくずれて映し出された。窓をスクリーンのように扱うので、まずは投影する大きさを調整する必要がある。窓にピタリと嵌まるようにしなければならない。

 どうやら外からは灰色のカーテンが掛かっているように見えるらしい。カーテンを開け放しておいても家の中が見られないのはありがたい。


 大きさや角度を変えて、調整を終える。

 すると、窓の外は一面森林の様子となり、まるでその中にいるようだった。平面でありながらも立体的に見えるようになっているので、違和感もほとんどない。

 しかも、映像は現実の時間と連動して変化していくようだ。風で葉が揺らぎ、動物が通ることもあり、日が暮れれば星明かりが微かに照らす。そんな光景が窓の外を見るだけで楽しめるのだ。


 これは良い買い物をした。私は素直にそう思った。

 その日は暇さえあれば森林の景色を楽しんだ。毎日零時に自動で切り替わるらしいので、明日は朝起きれば違った景色が見れるだろう。それを楽しみにしながら就寝した。


 翌日は大海原だった。その次は山頂。更にその次は氷河。

 毎日代わる代わる窓の外へと映し出される没入感のある景色に私は魅了された。

 しかし、日が経つにつれ次第に飽きが来るようになってしまった。どんな景色であろうとも、見ている内に慣れてしまうのだ。だからこそ、早く次の光景が見たいと思うようになっていった。


 そこで改めて説明書を見ると、景色の変更をオートでなくマニュアルにする機能があることに気がついた。ただし、そこには「推奨いたしません」と併記されていた。メーカーとしては毎日一つずつ楽しんで欲しいのだろう。今のところはどれもまるで違った景色だが、流石に無限のパターンが入っているわけでもないのだから。


 それでも、私は我慢しきれずマニュアルへと変更した。一つの景色に満足すれば、すぐさま次の景色へと切り替えるようになった。初めは変更のペースは緩やかだったが、徐々に速くなっていった。

 最終的にはほんの数分見れば切り替えるようになり、それが私の娯楽と化していた。


 新しい景色が見たい。もっと。もっと。もっと。

 いつしか美しい景色からどんよりと不安を煽るような景色へと移ろいでいた。それは私にとってむしろ喜ばしく感じられた。これまでとは違った感情を掻き立ててくれるのだから。


 そんな生活を続けていたある日、チャイムが鳴った。来客だ。

 扉を開けると、黒服で怪しい男達が立っていた。

 彼らは淡々と告げる。


「日めくり窓の使用データより、あなたの脳は過度に刺激を欲する傾向が見られ、偏桃体が機能していない疑いがあると判断されました。その為、専門的な医療施設へと入院してもらう必要があります。ただちにご同行をお願いします。これは国家権力による命令となりますので、拒否権はありません。悪しからず」

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