ゾンビ

「ふ、ふふふ……遂に完成したぞ! 私の研究が世界を席巻する時代の訪れだ!」


 博士は喜々として声を上げた。

 その視線の先には一人の人間が立っている。肌が異様なまでに白く、生気が微塵も感じられない。

 死体だ。紛れもない死体がそこに直立して佇んでいた。


「ほら、踊れ踊れ!」


 博士が手元のタブレットに触れると、死体はそれに対応する形で動いてみせた。

 動きとしては固いが、十分に機能していると言えるだろう。細かくプログラミングすれば、より具体的な行動も可能となる。


「よーし、早速売り込むとしよう」


 博士は知り合いの政府職員を呼びつけた。死体が動く姿を見せる。


「……ほう、これは確かに凄いですね。詳しい説明を聞いても?」

「もちろんだとも! これは防腐処理エンバーミングをした死体の脳に特製のチップを埋め込み、タブレットなどを通じて身体に命令を出して動かせるようにしているんだ。エネルギー源は各細胞を利用する形としているから、外部から補給する必要もない。実に素晴らしいと思わないかね!?」


「ふむ……これはいわゆるゾンビだと思いますが、不死身なのですか?」

「脳が破壊されない限りは、だね。再生もしないから、どこかしら損壊すればその時点で活動は困難となるが」

「それでは兵士としては使えなさそうですね。無人機ドローンの方がよっぽど有意義でしょう」


 政府職員の言葉に博士は「うぐっ」と呻いた。

 図星だった。確かに戦場では役に立たないだろう。

 慌てて他の利用法を提案する。


「し、死体に残ったエネルギーを活用できれば実に有意義ではないかね!?」

「それは死体をゾンビにする処置や材料に必要なエネルギーと比較してどうなのでしょうか?」


「運動エネルギーを他のエネルギーに変換するとして、活動限界は一か月ほどで、スペックは日に日に低下していくから……マイナスだな! 死体を燃料にした方が有意義だ!」


 計算を終えた博士は清々しい口調で述べた。

 興味本位で完成させた為、他のことはまるで考えていなかったのだ。いざ考えてみると、その結果に笑うしかない。


「そもそもの話となりますが、死体を利用するのは人道的な理由から厳しいですね。それでは失礼いたします」


 政府職員は無下に告げると、去って行った。

 取り残された博士はやがて、直立した死体を見てポツリと呟く。


「……お茶汲みでもさせるか」


 結局、博士の研究が日の目を見ることはなかった。

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