神々の遊び
西暦2531年9月21日。
その日、地球人類の造り出した有人船は遂に太陽系を飛び出して、外宇宙へと進出した。
太陽系の外縁部、すなわちへリオポーズを抜けたその船は光に近い速度でグングンと進んでいく。
これより目指すは、地球からケンタウルス座の方向に約4.2光年離れた位置にある、太陽系外惑星プロキシマ・ケンタウリbだ。人類の移住が可能かを確かめることがその船の目的とされている。
しかし、船内でも今だけは人類初となる外宇宙へと飛び出した余韻に浸ることが許されていた。
「遂にやったな!」
「これで俺達も英雄だ!」
「ははは、まだ気が早いぞ」
「そうだそうだ。僕らの目的はこれからだよ」
「とはいえ、今くらいは気を緩めたっていいじゃない、ね」
国籍も人種もバラバラな船員達は酒を片手に語らい合う。その場にいる誰もが笑顔だった。
酒も以前は宇宙空間では規制されていたこともあったが、現在は宇宙船の操作の自動化が為されていることもあり、規定の量であれば飲むことを許されていた。場合によっては薬用ナノマシンを用いて体内のアルコールを排出することも可能となっている。
そうして、宴もたけなわというところで、“それ”は現れた。
「いやぁ、皆さん、おめでとうございます! これにて地球人類の文明発達は規定値への到達と見なし、本ゲームは終了とさせていただきます!」
船員達は突如として出現した“それ”をギョッとした顔で見つめる。
光だ。光の靄のようなものが彼らの中心辺りに浮かんでいる。
一様に言葉を失うが、やがて一人の船員が声を上げた。
「だ、誰だお前は!?」
「うーむ、私の名前は貴方達の言語では発声出来ませんが、そうですね、ゲームマスターとでも名乗りましょうか。貴方達を扱ったゲームの主催者ということになりますので」
「ゲームってどういうことなの!?」
「宇宙誕生から知性体が一定の文明を獲得するまでのゲームとなっております。今回の文明の目標値は、自分達の所属する惑星系の外側に進出するまで、でした。ちなみに、今回のゲームは貴方達の数値で表すとすれば、138億2493万7340年と153日にてクリアということになります」
「あんたは一体何者なんだ。他の星の者か、それとも神様なのか」
「神様、というのが近いでしょう。貴方達にとっては唯一の宇宙も、我々からすれば数多ある内の一つでしかありません。それゆえ、新しい宇宙を生み出すことも、そこに生命を宿らせることも思うがままとなっています」
それはまるで夢のような話だった。
つまりは、自分達よりも上位の存在がただのゲームとして生み出したもの、それこそがこの宇宙であり、地球の生命であり、人類なのだ。
とても信じたくはないが、目の前にいる存在はそれら全てを事実だと表しているようだった。
船員達はお釈迦様の手の上で踊らされていたと知った孫悟空のように愕然とする。
そんな彼らにゲームマスターは慈愛に満ちた言葉を投げ掛ける。
「安心してください。我々は文明発達を見事成し遂げた貴方達を無下に扱いはしません。ゲームの終了と共に破棄することなどはありません。これより地球人類は誰もが楽園へと導かれることになります」
ゲームマスターはパーッと輝きを放った。光あれ、とでも言うように。
すると、全ての地球人類が楽園へと導かれた。
そこは誰もが幸いを抱いて過ごせる世界。一切の苦が存在しない世界。
そうして、地球人類は穏やかに滅んでいくのだった。
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