第28話 野菜使い

 中堅スーパーの警備室。


 女子高生が暴漢に襲われたとの通報があったため何人かの警察官がやって来た。しかし、暴漢たちは撃退されて逃げ出している為、警官たちは肩透かしを食らった形だった。

 そこで犯人の特徴を捉えようと防犯カメラを見る事にしたのだ。

 スーパーの防犯カメラの映像を見た警官たちは絶句した。


「……」

「……」

「……」

「何者だよ、この女子高生……」


 それは、まるでアクション映画の撮影でもしてるかのようだった。闇雲に逃げているように装って、狭い通路に誘い込み一対一の格闘に持って行っている。

 襲撃犯は人数がいるので容易く型が付くと驕っていたのであろう。瞬く間にかずを減らしていった。

 そう見えるくらいにクーカは襲撃犯を易々と撃退して行っているのだ。しかも、動きには一切の無駄が無かった。まるで格闘家対素人の試合を見ているようだ。話にならないのは一目瞭然だった。

 だが、これでも時間が掛かっている方だった。今までのクーカなら躊躇する事無く襲撃犯たちをあの世に送っている。

 今回は武器が無いので仕方なく格闘したのだ。別に格闘戦が苦手な訳では無い。クーカが武器を使うのにはそれなりの訳があった。

 クーカは体格が小柄なので体力が無い方だ。体力を猛烈に消耗する格闘戦は持久力に問題があったのだ。後、一分程度に襲撃犯が粘ったら、へたばってしまうのはクーカの方だった。それくらい危うい状態だったのは誰も分からなかった。

 男たちは何故か拳銃を出さなかった。目の前で驚異的な強さを見せるクーカに恐れをなして忘れていたのかもしれない。


「おぉぉぅぅぅ……」


 クーカが襲撃者の一人の股間を蹴り上げた瞬間。室内にいた男性警官たちが呻き声を漏らした。何かに共感したのだ。

 男共が何に畏怖したのか、理解できない女性警官はキョトンとしている。


「すげぇ、強いな……」

「本当に女子高生かよ……」

「……俺たちでも敵わないんじゃないか?」


 防犯カメラの映像を見ていた全員が口々に絶賛していた。

 ナイフとは言え武装した男たちを、野菜で撃退する女子高生に驚愕していたのだった。


「取り敢えずは被害届を出してもらっておこうか……」


 一番年配の警官がそう言った。


 一方、スーパーの警備室では事情聴取が行われている。灰色の壁だけの味気ない部屋だった。


「襲われた襲撃犯たちに心当たりはありますか?」


 警備員は被害者相手なので応対はとても丁寧だ。本来なら警察官がやるべきものだが、彼らは防犯カメラ映像の確認している為だった。


「無いです」


 実を云うと両手で数え切れないほど相手がいる。だが、いきなりCIAだのMI6だの言っても信じないだろうし、面倒が増えるだけなので黙っている事にした。

 元々、隙を見て逃げ出す予定だったクーカは大人しく尋問を受けている。

 あの大柄の女性警察官が入り口の所に立っているためだ。彼女は慈愛に満ちた目でクーカを見ていた。

 気に入られてしまったらしい。クーカは弱り切ってしまっていた。

 自分に愛情を示す相手のあしらい方が分からないのだ。


「お名前と学校名を教えて貰えるかな?」

「……」


 クーカは黙ってしまった。クーカは学校に行ったことが無いし、名前を名乗る訳にもいかないのだ。まず、日本に住所など持って無いので、そこから違う問題に発展してしまう。黙秘する以外に方法が無かった。

 それより目下の問題はあの女性警察官からどうやって逃げるかだ。


「学校で格闘系の部活に入っているとか……」

「無いです……」


 学校では無く米軍の特殊部隊仕込みなのだが、それも言えないというか信じて貰えないだろう。

 クーカは襲われた方なのに、何だか取り調べを受けるのが気してきた。憮然とし始めている。


「あの…… 何か特殊な職業に付いた経験があるとか無いですか?」

「無いです……」


 まさか世界中で指名手配されている殺し屋ですとは言えない。

 他に何も言えないので壊れたテープレコーダーのように繰り返すクーカ。そろそろ飽きて来た。

 敵に捕まった時に備えての訓練も受けた事が有る。

 その時には自分の名前と所属を繰り返して答えろと言われた。尋問官の目を見ずに机の端に視線を向けるのがコツだと教わった。

 目を見てはいけないのは反抗的だと取られて尋問が厳しくなるからだ。暖簾に腕押し状態だと相手が折れてしまうのだそうだ。

 しかし、これは敵に捕まった状態では無いので、どうやって脱出すれば良いのかが分からかなった。まさか、殲滅する訳にもいくまい、クーカは日常生活に不慣れなのだ。


「無いですか…… そうですか……」


 警備員はクーカが頑なに協力しないのでため息をついてしまった。


「じゃあ、警察の方に被害届を出して貰えませんか?」

「いいえ、大した被害は受けていないので出しません……」


 結構な暴れ具合だったが被害は無いと言う。確かにクーカが殴られた場面は無い。むしろ襲撃犯の方が肉体的にも精神的にもダメージを受けているはずだ。

 第一被害届を出すには住所が居る。これも出せない理由だ。

 検索されると密入国している事まで判明してしまう。そろそろ取り調べを止めて欲しかった。


「そうですか…… 仕方ありませんね」


 警備員は書類に何かを記入してバインダーを閉じた。彼も自分の職務以外には関心が無いようだった。

 どうやら、取り調べが終りそうな雰囲気にクーカは内心ほくそ笑んだ。


「では、余り過剰な攻撃は止めて下さいね。 過剰防衛になると危険が危ないですから……」


 警備員はこれ以上追及しても無駄と判断したようだ。訳の分からない説教をしている。

 襲撃犯たちは逃げ出しているので何処に居るのか分からない。道路までは追いかけたのだが途中で諦めてしまったのだ。


「それじゃあ、詳細が判明したらご連絡しますので……」


 クーカが被害届を出そうとしないので、立件が難しいと判断した警察官は引き上げていった。

 女性警察官は名残り惜しそうだったが一緒に帰って行ってくれた。クーカは安堵のため息を出した。

 スーパー側では野菜は残念だが、客に怪我人が出ていないので届け出は出さないようだ。

 本来なら出すべきなのだが、法人が手続きするのは色々と面倒なので嫌がるのだ。

 量り売りでもしてるのかと疑う量の書類を出さねばならないからだ。


「まだ、危険だと思いますので保護者の方に迎えに来て貰いたいんですが…… 何方か連絡付きますか?」


 クーカはしばらく考えてから、とある番号を警備員に教えた。


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