第17話 贈答品
再び多摩川上流の川べり。
先島はクーカを見かけた廃キャンプ場に来ていた。キャンプ場と言ってもバンガローやら水道設備などがある立派な物では無い。
多摩川の小さめな支流に無理やり作られたキャンプ場だ。
川べりの荒れ地を重機で均しただけ設備と名の付く物は何処にも無い。かつてのあったバブル時代に、税金対策として造成されたキャンプ場の一つであろう。
バブルの終焉と共に役割を終えひっそりとしているのだ。
「まあ、交通の便が悪いし日当たりも良くないから流行ら無かったんだろうな……」
先島はそんな事を言いながらキャンプ場の中をうろついていた。
そして、この廃キャンプ場に何故クーカが居たのかを調べたかった。それと、直ぐ近所に住んで居る門田実憂との関係だ。
(知り合いだから彼女を助けた?)
年頃も似たような印象を受けていたし、第一に門田はクーカを庇っているのが分かっていたからだ。
門田に事情聴取に行った時に、クーカの写真を門田に見せた。だが、知らないと言われてしまっている。しかし、門田の目の瞳孔が開いたのを先島は見逃さなかった。
人間が驚愕した時に見せる反応だった。
(しかし、報告書を読んだ限りでは、クーカは外国での暮らしが長かったはず……)
クーカは中米の国の出身らしいのは報告書にあった事項だ。
(でも、やたらと日本語が上手だったよな……)
車の中での会話を思い出していた。。外人にとって日本語はイントネーションが難しいらしく、独特の訛りが出る物だ。
クーカの場合には普通に日本の女の子でも通りそうな発音だった。
(門田との接点が何処かにあるはずだ……)
実際は偶然なのだが、そんな事は信じない先島は迷路に嵌まってしまっていた。
すると、先島の視界を何かが横切った。空を見上げてみると、トンビが上昇気流を捕まえて上空に上がって行く最中だった。
「そう云えば……」
先島はクーカが泣いているように見えたのを思い出した。
(焚き火を見てメランコリックになったとか……かな?)
年頃の女の子は意味不明に感傷的になると聞いた事が有る。
(男の俺には分からん感覚だな…… 藤井にでも聞いてみるか)
そんな事を考えながら焚き火の跡をほじくり返した。しかし、炭化した木の枝と灰が残っているだけだった。付近に焚き火の跡が無いので、クーカが焚き火したのはここのはずだった。
「まあ、煙が目に滲みていただけなんだろうけどな……」
ロマンティックの欠片も無いような独り言を言っている。
(何かを燃やしていた…… とかかな?)
先島は辺りを見回してみた。すると、茶筒が一つ落ちているのに気が付いた。草の影になっていたので気が付かなかったのだ。
「なんだ、これは……」
風雨にさらされた跡が無く、つい最近投棄されたのは明白だ。クーカが捨てた物かは不明だが調べてみる価値はありそうだ。
「持って帰って鑑識さんにお願いしてみるか……」
先島は茶筒を保存袋に入れて持ち帰った。
数日後の保安室。
室長が何やら封筒持って部屋に入って来た。
「先島ぁ…… あの茶筒の鑑定結果が出たぞ」
室長はそう言いながら、先島を自分の机に呼び出した。
「確か、かなりの高級品で数が出ていない品物でしたよね?」
先島は茶筒の写真を持ってデパートなどに聞き込みに行っていたのだ。そこで、贈答品などに使われる物だと判明した。
「それと極少量でしたが茶筒の内側からルミノール反応が出ています」
藤井は先島より先に鑑定結果を貰っていた。彼女は画像を表示させるために、中に入っているメモリスティックが必要だからだ。
藤井が鑑定結果を先島に渡した。ルミノール反応は犯罪捜査現場で血痕の検査に使われるものだ。つまり、茶筒の中に血液が付着した何かが入っていた事になる。
「大きさから言って…… 指でも入っていたんじゃないですか?」
青島が言った。確かに一時的に保管するのには適している。
今は少ないらしいが、ドジを踏んだ組織構成員が指詰めをする事がある。その指を入れて置いたのではないかと考えたらしい。
「じゃあ、指を処分する為に殺し屋を雇ったって言うの?」
沖川が青島に訊ねた。確かに遺棄したのはクーカなので、そうとも取れるがおかしな話だ。
「いや、それは……」
青木は答えに詰まってしまった。割に合わなさすぎるからだ。
「藤井。 門田とクーカを結び付ける物は何かあったか?」
先島が藤井に訊ねた。門田にクーカの事を訊ねたが知らないと言われてしまった。
しかし、見ず知らずの女の子を世界屈指の殺し屋が助けるとは思えない。何かしら繋がりがあったと考えるのが常識だ。
「百ノ古ノートですかね?」
藤井が画像を画面に表示させた。
「門田が襲われた日に、百ノ古は近くの駅に居たらしいんですよ」
日付を指差していた。確かに同じ日だ。しかし、門田に関する記述は見当たらなかった。
「駅の防犯カメラ映像を調べてくれないか?」
ひょっとしたら、二人は逢ってるのかもしれないと考えたのだ。
「はい」
藤井が答える。それに続いてキーボードを操作する音が聞こえて来た。
「それと茶筒ですが…… とりあえず、怪しそうな人物にあたりを付けてあります」
藤井はリストを画面表示させた。
そのリストには指定暴力団敷居会の海老沢会長の名前もあった。クーカが探しに行った人物だ。
だが、先島はその事をまだ知らないでいた。
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