第90話11月30日茶番

茶番なのか それが 現実なのか

訪問してくれた人たちが 母を笑わせてくれる

いろんなことをして楽しませてくれる

母は大きな声で笑い 楽しい時間だったと報告してくれる

俺との電話でも ワイワイと話してくれる

入院生活を楽しくリハビリ生活を楽しく

そういう趣旨で みんな頑張ってくれている

本当に感謝の言葉しかない

それなのに それをどこか茶番に感じてしまう俺がいる

皮肉でもない批判でもない馬鹿にしてるわけでもない

けれどもだ

母の半分がなくなったことは事実

それで 生活のほとんどが 吹き飛んだことも事実

経済的にも きつい

体力的にはボロボロで かなりの変調を感じている

母で言えば これまでやってきた色々な仕事ボランティア役職 外全てが 剥ぎ取られた

あんなに大好きで自分のアイデンティティでさえあった スポーツ観戦さえ口にすることをはばかるようになった

家に帰ってきた時何がどれくらいできるかと言ったら

下方修正だけの毎日になっていく

そんな状況で楽しく楽しくといっても

それは ひととき 現実から 目をそらして笑おうよと

言うことじゃないのだろうかと 思ってしまうんだ

そうしたらそれは やっぱりどこか茶番なんじゃないかと

だけどねその茶番で母がほんの少しでも ほんの一秒でも2秒でも 楽しい時間を得られるなら 感謝している

ただ 俺が どうかしているだけなんだ

そこにある楽しいが 本来の楽しいではない なんて思ってしまう

本来本来とうるさいよな

もう俺や母が 一緒にワイワイしていた、あの時の本来は 存在しないんだ

あるのは 母の半分がなくなった本来

それと向き合うからこそ ワイワイ楽しく やれるんだろう

それができてない俺は 現実から背を向けてるだけ

だけどさ

実際 どんなに楽しく笑ったって その1分後はさ 見えちゃうでしょう

今後押し寄せてくるあれやこれや

がんばるがんばるったって ね

やんなきゃいけないのは俺なんだよなと思うと

訪問して楽しませてくれてるみんなを悪く言ってるように聞こえるかもしれないけれどそうではなくて

俺は手放しで 楽しい入院生活を演出してやることができない

どこかしら茶番を感じてしまう

だから そうやって楽しませてくれる皆が

本当にありがたい

そういうことです

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