【第15話:オークの魔王 その5】
魔王ドリアクは、目で追うのがやっとの速度で迫るステルヴィオに、
「小癪なぁ!!」
怒号と共に巨大な剣を、横に一閃振り抜いた。
「当たるかよ!」
しかし、ステルヴィオは剣を難なく掻い潜ると、魔神剣で魔王ドリアクを捉え、剣ごと腕を斬り裂いてみせた。
「ぐぬぅ! 魔王覇気を紙のように!?」
いや、斬り裂いたのではない。
消失させたと言った方が正確だろう。
目で捉える事も不可能だろうステルヴィオの一撃に、しっかりと反応して大剣で受けてみせた魔王ドリアクは、十分称賛に値する強さだ。
だが、魔神剣を受け止めたかに見えた大剣は、その柄を残してほとんどが消失し、咄嗟に避けたドリアクの腕の一部をおまけとばかりに掠め取っていった。
「すげぇな。アレを避けるか」
しかし、驚いたのはステルヴィオの方も同様だった。
消えゆく魔神剣をちらりと見つめ、代わりに虚空から愛用の魔剣を取り出し、悔し気に構えを取った。
先の一撃に使用したのは『魔神剣』。
堕ちた神、魔神が扱う剣を一時的に顕現させるスキルだ。
その剣で斬れぬものは無く、あらゆるものを消滅させる強力無比な神剣だが、今のステルヴィオの力では一振りするのが限界だった。
「ほう。今のがとっておきだったわけか」
一瞬痛みに後ずさった魔王ドリアクだったが、すぐさま取り巻きのオークの1体から高位の回復魔法が飛んできて、腕の傷は既に修復されていた。
「まぁ、とっておきっちゃぁ、とっておきだなぁ。正攻法で魔王覇気を破るのは面倒だから、手っ取り早く終わらせたかったんだけど」
そして、こんな会話をしているうちに、オークキングの一体が近づき、魔王ドリアクに自分の大剣を渡していた。
「あっ! ずっりぃなぁ!」
全然悔しそうではないが、悔しそうな台詞を言って楽しそうなステルヴィオ。
その時だった。
そのステルヴィオの態度に我慢の限界が来たのか、オークキングの一体が後方から斬りかかってきた。
「不遜な態度を悔いて死ねぇ!! ……げぎゃっ!?」
だが、吹き飛んだのは3mの巨体を誇るオークキングの方だった。
「魔王覇気に対抗できるのは、聖光覇気か……同じ魔王覇気だけなんだぜ?」
大剣の一振りをわざと避けずに、何もせずにその身体で受けただけなのだが、それだけでオークキングは吹き飛んだのだ。
「お前たちはコイツに手を出すな! 魔王覇気とは絶対なる力! やるだけ無駄だ!」
「自分も使えるからって、威張るなよ。やったのはオレなんだぜ?」
そんなとぼけた事を言いつつ、一瞬で魔王ドリアクの足元に斬りかかった。
魔神剣は元々巨大な上に、その斬撃は伸びるので体格差はあってないようなものだったが、今ステルヴィオの使っている魔剣は、斬れ味こそ凄まじいものの、特別な力などは持っていなかった。
そのため、必然的に斬りつける部位が足になってしまったのは仕方ない。
もちろんステルヴィオの身体能力をもってすれば、飛び上がれば簡単に魔王ドリアクの頭部を斬り裂く事も出来るのだが、アルテミシアのようなスキルを持たないステルヴィオがそんな事をすれば、良い的になるだけだろう。
「チビがちょこまかと!!」
だがステルヴィオは、その
「チビがぁぁ!!」
魔王ドリアクも負けじと大剣を豪快に振り回すが、ステルヴィオは
「チビチビチビチビ、うっせーよっ!? 人間でオレの歳なら普通なんだよ!!」
「ぐぬぅ!?」
魔王ドリアクも分厚い魔王覇気を纏っているので、どれも致命傷には程遠いのだが、本来なら斬られるはずのない魔王覇気をたやすく斬り裂くステルヴィオに徐々に焦りの色を濃くさせていく。
しかし実際は、ステルヴィオにもそこまで余裕があるわけではなかった。
それは、魔王覇気を行使していられる時間に限界があるからだ。
約半年前、魔王アンドロと戦った時よりも、ステルヴィオの魔王覇気の扱いはかなり上達しており、その持続時間も相当伸びている。
それでも魔王たちと比べてステルヴィオが唯一大きく劣る所があるとすれば、この魔王覇気を行使し続ける事が出来る時間の長さだった。
勇者の扱う『聖光覇気』と魔王が扱う『魔王覇気』は、その本質は似ている。
それなのに、実際戦ってみればほとんどの場合は勇者が劣勢に立たされる。
それは、勇者と魔王では覇気そのものの
実際、半年前にアルテミシアがゴブリンの魔王アンドロに呆気なく負けてしまったのも、聖光覇気を纏っていられる時間が短かったのが一番大きな原因だった。
「ぐぬぅ! 確かに強い! だが、お前では我に勝てぬぞ!」
そしてそれは、オークの魔王ドリアクも見抜いていた。
勇者と同じように持久戦に持ち込めば、やがて魔王覇気を維持できなくなり、自分が勝利するだろうと。
「どうした! いつまでも、そうやって逃げ回っているつもりか!」
今はまだステルヴィオが圧倒しているとはいえ、このままでは魔王ドリアクの言うように持久戦に持ち込まれて負けてしまう事もありえる。
(ゼロを呼び出せばすぐ片付くんだが、あいつ今日は鍛錬の成果をチェックするみたいな事言ってたしなぁ……。仕方ない。とっておきその2行ってみようか)
しかし、そんな事はステルヴィオの方が何倍もよくわかっている事だった。
「まぁこのまま戦っても何とか勝てる気はするんだが……一気に片を付けさせて貰うぜ!」
そう言って一旦魔王ドリアクから距離を取ると、魔剣を鞘に戻し、呼吸を整えると目を閉じた。
「ぬっ! 何をするつもりだ!」
しかし、それを黙って見ててくれるほど、魔王ドリアクは甘くは無かった。
大技を放つ前の隙だと気付くと、一時的に更に魔王覇気の出力を上げて、巨体からは信じられない速度で斬り込んできた。
「お前は危険過ぎる! 我がここで終らせてやろう!」
地面を爆発させるような踏み込みで振るわれた大剣が迫る中、ステルヴィオはまだ目を閉じたままだったが、
「ったく……まだ慣れてないってのに……」
そこでようやく目を開き、腰の魔剣に手をかけた。
「何をするつもりか知らぬが、もう遅い! 死ねぇぇぇ!!」
最初のステルヴィオの攻撃に迫る速度で繰り出された袈裟斬りが、小さな体を捉えようとしたその時、
「遅かねぇよ」
ステルヴィオの身体から、不浄と清浄の光が同時にあふれ出た。
「それに……死ぬのはお前だ! 『聖魔混合』! はぁぁぁっ!!」
裂帛の気合いの元、抜剣と共に繰り出された剣閃が魔王覇気を纏った大剣を紙のように斬り裂き、返す剣で袈裟斬りを放って魔王ドリアクの身体を斜に斬り裂くと、その巨体を両断したのだった。
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