【第14話:オークの魔王 その4】

「おい! 一体何が起こっているのだ!」


 苛立たし気に部下であるオークジェネラルに怒鳴りつけるのは、魔王の側近であるオークキング。


 暴壊魔王軍の後方に突如出現した巨大な狼の魔物。

 すぐにそれが魔物の中でも最上位に位置する魔物『ケルベロス』だとわかり、魔王ドリアクの王命・・を受け、3体のオークキングがこれを討伐に向かった。


 魔王陣営も全ての魔物を従えているわけではないので、このような事が起こる可能性もゼロではない。


 しかしその直後、今度は勇者らしき者が現れたとの報告を受ける。

 魔王ドリアクは魔物と勇者の組み合わせに疑問を感じながらも、こちらも万全を期して2体のオークキングに加え、多くの高位のオークを付けて向かわせた。


 だと言うのに、遠方で起こっている戦いは収まりを見せず、それどころか混乱は広がり続け、争いの場が拡大していっているように見える。


「もう良い! 我もちょうど体を動かしたかった所だ。お前らも着いてこい」


 そう言って立ち上がり、歩き出した魔王ドリアクに、5体のオークキングも頭を下げてその後に続く。


 しかし……魔王ドリアクはすぐにその歩みを止める事になった。


 後ろを歩く側近のオークキングたちは、魔王ドリアクが突然立ち止まった理由がわからず、その視線を前方に向け……そこにその理由を見つける。


「ば、馬鹿な!? な、なぜ本陣に人間がいる!?」


 そこには、魔王ドリアクの行く手を阻むように立ち塞がる者がいたのだ。


 突然の人間の出現に驚き、慌てて前に出ようとするオークキングたちに、魔王ドリアクは右手を横に上げて制止すると、その少年・・に話しかけた。


「小僧、どうやって忍び込んだ?」


 凄まじい威圧を放ち、そう問いかけた魔王ドリアクだったが、


「ん~? ひみつかな~?」


 その少年ステルヴィオは、そう言ってお道化てみせた。

 常人ならそれだけで死んでしまってもおかしくない程の威圧を受けながら。


「貴様ぁぁ!! 人間風情が舐めた口の利き方をぉぉ!」


 しかし、その態度を見過ごせない者がいた。


 その様子を見ていた側近のオークキングの1体が激昂しステルヴィオに斬りかかる。

 最高位の魔物であるオークキングの繰り出す一撃は凄まじく、轟音と共に振り下ろされた大剣が、ステルヴィオの身体を斜に斬り裂いたかに見えた。


 だが、膝から崩れ落ちたのは攻撃したはずのオークキングの方だった。


「あっぶないにゃぁ~」


「ネネネとトトトがいる事にも気付いて欲しいにゃ」


 ステルヴィオの後ろから現れたのは獣人の幼女。

 双子のネネネとトトトだ。


 ネネネがオークキングの大剣を受け流し、トトトがその隙にオークキングの腹にスキル『次元刀』を突き刺していたのだ。


「こ~らっ! 人の獲物を盗るなよ?」


 目の前でそのような攻防が繰り広げられたというのに、ステルヴィオの台詞はまだ気の抜けたものだった。


「早い者勝ちにゃ!」


「ヴィオが何もしないから?」


「別にあの程度の攻撃効かねぇからな。まぁいいや、元々側近はお前らって話だったしな。オレはあのでっかい魔王モドキを殺るわ」


 そして、ここでようやく事態を飲み込めたのが魔王ドリアクと、その側近や周りにいた高位のオークたちだった。


「侵入者だぞ! 殺せぇぇ!!」


 オークキングのその叫びに呼応して、周りにいた百を超える高位のオークたちがステルヴィオたちの元へ殺到する。


「あぁ、じゃぁとりあえず雑魚先に片づけるか」


「「じゃぁ、勝負にゃぁ!!」」


「あっ!? ちょ!? 待て! ズルいぞ!」


 残像を残してネネネとトトトの二人が掻き消えたかと思うと、駆け寄ってきていたオーク数体の身体が斬り裂かれた。


「ぐがぁぁ!?」


 次元刀に斬り裂かれ、断末魔をあげて倒れるオークを見て足を止めた別のオークが、今度は胸に剣を生やす。


「ぐげ?」


 自らの最期も理解できずに命を刈り取られたオークが倒れると、次の瞬間にはまた別のオークの体が両断された。


「な、なんだこのチビは!?」


「囲い込めぇ!」


「ぎゃぁ!?」


「そっち行ったぞ! いや、こっちに……ぐべ……」


 そこからはオークたちの阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていった。


「あ~ぁ~。あいつら乱戦に持ち込んだら、オレの大技使えねぇじゃなぇか」


 すっかり取り残されたステルヴィオは、もう二人との勝負を諦めたようで、自分に向かって来たオークだけを殴り・・殺していた。


「ば、馬鹿な……ジェネラル級のオークを素手で一撃だと……」


 自分たちの体格からすれば、子供どころか赤子ほどの大きさしかない人間の少年が、その何倍もの大きさの高位のオークを殴り殺している光景に、側近のオークキングは訳が分からなかった。


 しかし、それを可能にした理由を見抜き、戦いを挑むべく歩み出たものがいた。


「ど、ドリアク様! そのような者、我らが……」


 魔王ドリアクの行動に驚き、まずは自分たちがと訴え出たオークキングだったが、魔王ドリアクはもう一度右手を横に突き出し、


「お前たちでは無理だ」


 と言って黙らせた。


 しかし、魔王のその言葉よりも先に、激情にかられてステルヴィオに襲い掛かったオークキングがいた。


「死ねぇ!! 下賤の者がぁぁ!!」


 トトトに次元刀で腹を貫かれ、蹲っていたオークキングだ。


 一度落とした大剣を拾い上げたかと思うと、大剣に陽炎を纏わせ、ステルヴィオに向かって振り下ろした。


 だが……、


「な、なんで人間の貴様が、そ、それを使えるのだ……」


 岩をも簡単に砕くであろうその一撃は、ステルヴィオの掲げた左手一本で受け止められていた。


「こうして実際に見ても信じられぬが……やはり魔王覇気を……」


 そう呟いたのは魔王ドリアク。

 驚愕に目を見開く側近のオークキングたちを無視して、ステルヴィオはその呟きに答える。


「まぁそう言う事だから、魔王モドキ、お前以外じゃ相手にならないぞ?」


 そう言った瞬間、大剣を振り下ろしていたオークキングの体が爆ぜた。


 魔王覇気を纏ったステルヴィオが、一瞬で10数発の拳を叩き込んだのだ。


「フフフフフフ……ハハハハハハハハハッ! 面白い! 面白いぞ! ならば、受けてやろう!」


 そう言って自らも魔王覇気を纏った魔王ドリアクは、オークキングたちが持つ物よりも巨大な魔剣を背中から引き抜いた。


「話がわかるじゃないか」


 ステルヴィオも、分厚い魔王覇気を纏い、大剣を構えた魔王ドリアクを見て、自らも虚空から剣を引き抜く。


 いや……正確には、引き抜いたのではない。

 剣を創り出した・・・・・のだが。


「ほう。凄まじい力を感じる剣だな」


「まぁ、とっておきなんでな」


 そう言って『魔神剣』を斜に構えると、自らの魔王覇気も爆発的に引き上げてみせる。


「やはり面白い! 小僧、名を聞いておこう!」


 誰何する魔王ドリアクに、ステルヴィオは


「やなこった!」


 残像を残して斬りかかったのだった。

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