二十六 井総之交(一)
まず悲報が相次いだ。
彼は
そしてあの美しい
まさに佳人薄命、彼女はまだ二十四歳だった。
死の間際、彼女は自分の髪の一房を切り真備と真成に半分ずつ分け与えて、真備には帰国の際に持って帰って海を見せてくれと、真成にはもし元家の商隊に入るなら、ともに持って行って西域を見せてくれと言い残した。
それから真備の家の下女、孫婆さんが死んだ。わたしは葬式の手伝いに来た
要するにこの女は崔温嬌の身代わりなのだった。
元蘇蘇を失った真備は彼女を自分の部屋に招き入れるようになり、やがて女は身籠もり子を産んだ。生まれたのは男の子だったが、すぐに崔温嬌に引き取られ、その後どうなったかは分からない。
真備の家にもいづらくなったわたしはよく
五歳になっていた翼と翔はわたしが来るといつも大喜びで、わたしをおじさんと呼び、手を引っ張って庭に連れ出しては一緒に遊ぼうと誘った。わたしはほとんど彼らのいいなりだった。
あるとき翼が木の枝を拾ってきて何か絵を描いてくれというので、わたしは地面に鶏の絵を描いた。
翼と翔は、
「こんなの鶏じゃない」
「こんなの鶏じゃない」
考えあぐねたわたしは二人の似顔絵を描いた。
子どもたちはやっと興味を示して、
「どっちが翼?」
「どっちが翔?」
わたしは二つの顔の絵の下にそれぞれ翼、翔と字を書いた。
二人は字を見て、
「これ何?」
「これ何?」
「これはきみたちの名だよ」
!
“ほら、これがおまえさんの名だ〟。
二人は目を輝かせて、
「ぼくも書く!」
「ぼくも書く!」
わたしは早くなった胸の音をからだの中で聞きながら、まず翼の小さな手に木の枝を握らせて一緒に字を書いた。
〝翼〟
それから翔の手を取って同じように書いた。
〝翔〟
二人は興奮して、
「お母さん、来て来て! ぼく自分の名を書いたよ!」
「お母さん、早く来て! ぼくも名を書いたよ!」
と駆け出し、母親を呼びに行った。
わたしはそのままひとりで字を書き続けた。
〝真海〟
〝日本〟
故郷の
「
ああ、おれにもひとに何かを与えることができるなんて!
子どもたちに手を引かれて
大きなお腹をさすりながら淑梅は、
「あら、これ、あなたたちが書いたの? まあ、上手に書けたじゃない!」
と微笑んだ。
わたしは立ち上がり、彼女に一礼した。
「わたしはこれで失礼します。用事を思い出したので」
大急ぎで宣陽坊へと向かった。
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