九 玄昉(二)
わたしは
「は、はい。とても大きくて美しくて、ずっとわたしを見送ってくれているようで……」
「ふむ、見送る、ですか。なるほど」
玄昉はそっとわたしの肩に手を置いた。
かと思うとぐっ、と肩を掴んで背後からわたしの顔を覗き込み、にやりと笑って、
「やはりな。
玄昉の光る目に射られてわたしはうっ、と息を止めてしまった。
「土佐からは富士山は決してそのようには見えぬぞ? 真海、おまえの言葉にはおれがいままでに聞いたことのない訛りがある。たぶん
わたしはいまさら取り繕うこともできず、観念して彼にこれまでの経緯を話したのだった。
玄昉はわたしの頭を撫でるようにして髪を束ねながら、
「おまえの出会った旅の僧とは誰であったのだろう。平城京の寺を
わたしは驚いた。宇合がかつて梅の花の香る屋敷で言った言葉を思い出したから。
「で、でも、あの、宇合さまは“わたしは恐れぬ”と……」
「ならばなぜおまえを上総に帰さぬのだ。防人に戻さぬのだ。おまえを留学生の
玄昉はわたしの両肩をぽん、と叩いた。
「終わったぞ。虱はいなかった。なあ、真海。もう一つ聞かせてくれ。おまえは防人のままだとして、もし隣国の
話題ががらりと変わったので、わたしは頭がついていけなかった。
「わ、分かりません……」
「ははは、そうだよな。そのときにならなければ分からんよな。人の心は揺れ動くもの、とおれ自身がさっき言ったのを忘れていた。いまの問いは少しは留学僧らしいことを考えようとして出したものだ。気にするな。さあ、皆のところへ戻ろう」
結局虱は宇合の傔従と数人の水手たちの頭から見つかった。
副使さまは大きな
「うあちちちちち!」
男たちの叫びを聞き、副使宇合さまはようやく溜飲を下げたのだった。
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