第31話 定例会とお仕事
同じ週の水曜日。ほぼほぼ一ヶ月ぶりの文化祭実行委員会の定例会が開催されていた。話している内容といえば、主に今年度の標語や、ミスコンや花火等の設営、カンパを募るスポンサー集め等々、去年の状態を踏まえた上での仕事の説明が主だ。
俺のいるクラス、2Bの役割分担はゴミ箱の設置と回収、片付けを割り振られた。花火やミスコンといった派手さはないものの、その分大変さもない分担である。
多分クラス代表だけで集まって決めたんだろうな、と無難な選択をした高坂を盗み見た。壇上ではスライドを指しながら今年の実行委員長がクラスの出し物について説明している。それを高坂はわりかし真剣に聞き入り、時折配布資料の隅にメモを取った。
俺はその姿勢に見た目とのギャップを覚えてしまうものの、文化祭の時期を考えて自分の推察に納得する。
文化祭は毎年十一月の頭、文化の日がある休日を中心に開催される。一つ上の三年生はまさに受験の追い込み時期でありクラスの出し物にかけていられる時間は少ない。なので飲食物等のメインを張れる出し物は主に二年生が優先され、文化祭を目一杯楽しめるのは二年生ということになる。
それは派手な見た目で、楽しむことが好きそうな高坂が真剣になってもおかしくない理由に違いない。
「クラスの出し物については各クラスで決めた上で、クラス代表が期日までに委員会に提出するように。それじゃあ今日の定例会は終わりだ」
そう委員長が締めくくり、定例会は解散になる。俺の隣にいた竹下はさっさと帰りの列に紛れてしまうし、高坂の右隣にいる樋口は「これからどこか遊びに行かないか」としつこく誘っていた。
俺は下っ端Bらしく、竹下の帰宅ムーブを真似しようとしたのだが高坂に腕を掴まれてあえなく失敗する。
「アンケート作るの手伝ってよ」
なぜ俺を選んだんだと思わずにはいられない。
「そんな根暗じゃなくてさ、俺が手伝うぜ!」
「……と、言ってるぞ」
帰りたかった俺は樋口にそれとなく水を向ける。高坂は伸ばされた樋口の腕を乱暴に払いのけた。
「はあ? あんたの方がまだマシよ」
おい、樋口がこの世の終わりみたいな顔をしてるぞ。
しかしそんな樋口に高坂は容赦ない追い討ちをかける。
「必死になっちゃって、もしかして童貞? 私チェリーには興味ないから」
「……」
あ、死んだなコイツと確信した。もし魂が目に見えるなら絶賛樋口の口から出てるだろう。復活されても面倒くさいからどうかしばらくそのままでいてくれ。
「いこ。下っ端でも委員なんだから、仕事くらい手伝ってよね」
「分かったよ。手を離してくれ」
俺は会場を抜け、ずんずん先を行く高坂に降伏した。今日は冬木のバイトも入っていないしこれといった用事もない。アンケート作りを手伝うくらいの余裕はあった。
「逃げたら許さないから」
「逃げないって」
「あっそ」
夕暮れの廊下に二組の足音だけが反響する。
高坂が目指していた場所は教室が並ぶ校舎ではなくて、理科室などが集まっている方の校舎だった。その三階にあるPC室の扉を高坂は解錠する。この学校ではかなりセキュリティの高い部屋で学生証を認証用の装置にかざさないと入退室ができない仕組みになっている。
「ちょっと待って」
適当に選んだパソコンの前に高坂は陣取ると、めまぐるしい速度で画面に何かを展開していく。俺は隣のイスに座って激しい打鍵音と色とりどりの文字列を目で追った。
「出し物の形式ってどんなものがある?」
不意に差し向けられる質問。その間も高坂はディスプレイから目を離さない。
「順当に言ったら、飲食系か物販系か展示系のどれかじゃないか?」
実際に今日の定例会で委員長もそんな分類をしていた気がする。お化け屋敷なんかのアトラクションも展示に分類されていた。
「そ、具体例は?」
「喫茶店とか、焼きそば、たこ焼き、綿あめ、ホットサンド、チョコバナナ、ポテトフライ」
「多い。しかも飲食系ばっか」
「質問したのそっちだろ」
やれやれと高坂が首を振る。その間にもカギカッコの中にそれらの文字が埋め込まれていった。一つのページでの作業が終わると、用意してあった別のページに移りそちらにも似たような物を猛スピードで打ち込んでいく。それは俺が桐ヶ谷からのラインに返信している間も止まることがなかった。
「なあ、これは何を作ってるんだ?」
「アンケートに決まってんじゃない」
なんとなく、ワードか何かで作ったようなアンケートとは違う物を高坂は組み立てているらしかった。また目まぐるしくページが変わり、印刷画面にQRコードが表示される。
「今送ったから、取ってきて」
クイ、と顎をしゃくった方を見ると、ちょうどプリンターが稼働するところだった。俺は手伝いの意味について考えさせられながらそれを取って戻ってくる。
A4の紙にはでかでかとQRコードが印刷されていた。
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