仮名 山下さん
山下さんが入院したときの話だ。
僕の体験談です。
看護師さんから部屋を案内された部屋は大部屋でした。
僕は精神的に追い詰められて自殺行為をしてしまい、病院に搬送されそのまま入院することになりました。
まぁ、誰も見舞いなんか来ないか・・・。
ベッドに横たわっていると、隣から話しかけられる。
「にいちゃん、何やったんだ?」
「あぁ、ちょっと手首切っちゃいまして」
僕はそのおじさんに手首を見せる。
「何かあったのか?」
親身に話を聞いてくれるおじさんに僕は不覚にも涙を流してしまった。
「まぁ、生きてりゃいいことあるさ」
おじさんは僕にお菓子をくれた。子供扱いすんなよ!と思ったが、素直に受け入れた。
おじさんはその夜、様態が悪化して病室を後にした。
おじさん・・・大丈夫かな。
看護師の話ではICUに入ったと聞いた。
僕は眠れずにいる。
誰かに話を聞いてもらいたくなって、携帯を探して病室を出た。
誰でもいい、繋がってくれ。
そう願っていると、母親から電話がかかってきている。
僕はその電話に出る。
「お前、大丈夫なの?病院に搬送されたって聞いてビックリしたわー」
「母さん、大丈夫だよ。数日で帰るから」
「数日で帰れるならいいの。お父さん、騒ぎを起こしてカンカンよ」
あぁ、父は世間体を気にしているのだ。
「とりあえず母さん、大丈夫だから」と電話を切る。
父も母も出掛けた後にやってしまったから仕方ないよな。僕が搬送されたって事は病院からの電話で知ったのだろう。
ため息をつき、病室に戻ろうとする。
「おい、にいちゃん眠れねーのか?」
聞きなれた声に振り向くとICUに入ってるはずのおじさんが立っている。
「おじさん、ICUに入ってるんじゃ?」
「いやぁ、様態が良かったから出られたんだよ。参ったねーハハハ」
おじさんは頭をかきながら笑う。
「おい、にいちゃん!人生は一度きりだぞ!楽しくやらねーとな」
僕の肩を強く叩き、歩いていく。
僕はおじさんの姿が見えなくなるまで見送る。
病室に戻った僕はそのまま眠りに落ちた。
朝、目が覚めると隣のおじさんのものが全て片付けられている。
看護師に聞くと、昨夜ICUの中で亡くなったらしい。
じゃあ、昨日会ったおじさんは・・・。
退院後、僕はおじさんのお葬式に参列した。
おじさん、ありがとう。
お葬式の帰りに誰かが僕の肩を掴んだ。
振り向くと亡くなったはずのおじさんが立っている。
「にいちゃん、俺にくれよ、その体・・・」
僕は急いで数珠を握りしめ走った。
後ろを振り向かずに・・・。
彼の肩にはまだその掴まれた痕があるらしい・・・。
振り向いてはいけない 卯月レン @426uzuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。振り向いてはいけないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます