魂融合

「ふぁ〜····」


俺は宿のベッドから起きると今日の準備をする。

今日は時間魔法の練習をするために平原に向かう。


「みんな!おはよう!」


俺はいつも通り、食堂にいるアリスたちに挨拶をする。


「おはようございます」

「おはよう····です」

「おはようなのです!」

「····おはようございます」


今日もマナは機嫌がよろしくないようだ。多分、昨日と一昨日のことがまだ気に掛かっているんだろう。


「仁!ちょっと····」

「ん?どうかしたのか?」

「ついてきて欲しいんですの····」


マナに呼ばれてマナの部屋に移動する。


「仁····その····」


マナがごにょごにょしている。うん····めちゃめちゃ可愛い。


「ご····ご····」

「ご?」

「昨日はごめんなさいですの····」


やっぱり、それが原因か····


「アリスから聞きましたの····昨日、酒に酔った勢いで仁に抱きついてしまったらしいですわね····」

「大丈夫だよ?全然気にしてないから」


俺はそう言うと少し涙ぐんでるマナの頭を撫でる。そしてマナの手を取り引っ張る。


「さぁ!みんなの所へ行こう!」

「分かりましたわ!」


マナが目を大きく擦って走り出す。


「遅いわよ!····何してるの2人とも?」


アリスに言われて、繋いだ手を急いで離す。


「な、何でもないよ!さ、さぁ!平原に行こうか!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

俺たちは平原の黒龍と戦っていた。


「アリス!盾で弾いて!」

「分かったわ!」


アリスは片手剣と盾を装備している。そしてアリスは左手に持った盾を使って黒龍の前足攻撃を弾く。


「マナ!氷魔法を!」

「分かりましたわ!」


マナは氷魔法で仰け反った黒龍の足を凍らせる。足が凍った黒龍は横転する。


「カーマ!」

「分かったのです!」


カーマは大きく跳躍し、黒龍の喉に剣を突き刺す。

しかし、まだ龍は倒れない。やはり女の子では力が足りないようだ。そして剣が刺さったままの黒龍は、カーマを振りほどく。


「リー!支援魔法を!」

「は、はい!『パワー加護・ブレッシング』」


リーが俺に強化魔法をかけ、俺は先程カーマが突き刺した剣を掴み、捩じ込んだ。


「はぁぁ!」


暴れていた龍はとうとう倒れ、動かなくなった。


「みんなおつかれ!」


俺は、へとへとで倒れているみんなに近づく。なぜみんながこんなに疲れているかと言うと、主に防具を付けていないからである。


「防具がないと、めちゃめちゃキツいですね」

「そうですわね····銀龍の防具は強過ぎますものね」

「だってあの防具、攻撃を全部弾いちゃうのです!」

「そうです····ね」


俺は黒龍の死体をアイテムボックスにしまうと、みんなを連れて帰ろうとする。その時、1本の剣が飛んできて、目の前の地面に刺さった。


「っ!この剣は····まさか!」

剣が光になって消える。


「久しぶりだな····」


空から、ローブを纏った男が現れる。

そして俺はその男の名を告げる。


「アストラル!」


俺の声に気付いたのか、アリスたちが近付いてきた。


「何ですの!?」

「え?あれは誰です····か?」

「仁?あの男を知ってるのです?」


アリスたちが近くにいると巻き込んでしまうかもしれない。そう考えた俺はアリスたちを離れた場所に移動させる。


「アリス、マナたちを連れて少し離れてて····」

「······分かった」


アリスがマナたちと一緒に少し離れた場所に移動する。


「そろそろ、準備ができたか?」

「あぁ!」


アストラルの問いに答え、俺は構える。


「いくぞ!」

『聖剣召喚』『加速アクセル』『加速アクセル』『加速アクセル


聖剣を召喚し、俺は自身の体に強化魔法をかける。


「お前の実力を見定めさせてもらおう」

『聖剣召喚』


同じく、ローブの男も聖剣を召喚する。


「ふっ!」

「はぁ!」


俺は光を超える速さで前に走る。それと同時にローブの男も走りだす。

そして、互いの剣がぶつかるとキィィン!という音と共に火花が散る。

ローブの男と数回鍔迫り合いをしたあと、俺は距離をおいた。


「どうした?早く本気を出せ····さもなくば、あの女達が死ぬぞ?」


ローブの男はまだ余裕な表情を見せている。


「分かった!お前に今の俺の本気をぶつける!」

魂解放アストラル・バースト

魔王の魔力を解放する。周りの草々が激しく揺れる。


「王の証よ!今、勇者の証とひとつになりて俺に真の力を!」

アストラル融合・フュージョン


王の証と勇者の証が融合し剣の形をした証が両手にに宿る。仁の体が黒い鎧に包まれていき、仁の目が白銀に染まる。


「それがお前の本気か····」

男は一切動揺しない。


「いいや、まだ不完全な状態だ····さぁ!戦いを続けよう!」

「良いだろう!」


『武器召喚×50』『魔法付与エンチャント自動追尾オート・ロックオン』『魔法付与エンチャント加速アクセル』『魔法付与エンチャント加速アクセル

浮遊する剣を50本召喚し、それら全てに『自動追尾オート・ロックオン』と『加速アクセル』を付与する。


「行け!」

俺は剣に合図を出すと、俺と一緒に浮遊する剣も同時にローブの男に向かう。


男は聖剣で、次々襲いかかる剣を弾いていく。そして、俺は自らの剣を振り下ろした。しかし、男はそれをひらりとかわす。


「どうした?それがお前の本気か?」

男は笑いながら、俺を嘲笑う。


「かかったな!」

しかし、俺はそこで時間魔法を発動する。

空間固定ロック

男の動きが止まる。


『聖剣解放』

俺は聖剣に、莫大な魔力を集める。そして、その剣が男の心臓を貫こうとした。その次の瞬間、


「くっ······なんだと····?」


男の魔剣が俺の心臓を後ろから貫いていた。俺は口から血を垂らしながら、ばたりと地面に倒れた。


「まさか、こんな罠に引っかかるとは····」


俺の目の前にいた男がフワッと消える。そして、俺の後ろに男が現れる。


「幻影····だと?」


俺の意識が朦朧とし始める。


やがて、男の体が段々透明になっていきその場から消える。


「仁?ねぇ!仁ってば!しっかりして!」


アリスが駆け寄り、声をかける。しかし、俺は返事をすることが出来ない。


「リー!お願い····回復魔法を!」

「わかっ····た!『神の祝福ゴッド・ヒール』」


リーが回復魔法を展開する。『神の祝福ゴッド・ヒール』はどんな怪我や病気も一瞬で治すことができる。しかし、俺の傷が癒えることはない。


「何····で?どうして····治らない····の?」

「聞いたことがありますわ。魔王が振るったとされる魔剣は人間に、『絶対に癒せない傷』を付ける····と」


マナが図書館にあった、勇者伝説という本の内容を思い出した。


「そんな····じゃあもう仁は····」

「助かる確率はほぼゼロですわ····」


アリスが膝から落ち、涙を流す。それを見た瞬間、他の3人も涙を流した。そこで俺は意識を失った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

俺は何もない空間にただ一人立っていた。俺の頭の中に声が響く。


「仁····聞こえるか?」

「ああ、聞こえているさ」


「よく聞け····今から我の命をお前に託す····」

「そんなことができるのか?」


「ああ····だが、ひとつ問題がある」

「その問題とは、いったいなんだ?」


「お前の体だ····果たして今のお前の体が我の魂を全て受け止めきれるか····」

「結局、やらなきゃ死ぬんだ····だったらそれをやろう」


「分かった····我の言った言葉を復唱しろ」


「我は汝····」

「我は汝」


「我は····風林火山を統べるものなり」

「我は、風林火山を統べるものなり」


「汝の命を代償とし···その罪を背負う」

「汝の命を代償とし、その罪を背負う」


「我が名は····アストラル····魔を統べる王なり」

「我が名はアストラル、魔を統べる王なり」


俺の体に灯が灯る。そして、アストラルの声はもう、届かない。今この瞬間、俺がアストラルとなったのだ。

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