第10話 クリスマス 特別版③

 鍵を開け、ひらいた扉の先にはファンシーに内装のされたただの部屋だった。赤を基調としたその室内は、金や銀、水晶やらを上手く使い大人的なムードを引きだしている。それに、部屋の中央にあるベットがハート型で、凄く良い感じの部屋だった。

 

 そういや、昔こう言う部屋をラブホで見た事あったなー。俺は使った事ねーけどよ……。思いだしたら凹んで来たぜ……。

 しかし、この部屋誰が用意したんだ? 幸せになれる部屋ってことか? ってことは――! ついに、俺は嫁と――!?


「いらっしゃぁ~ぃ。た・つ・ま」


 妄想を膨らませていた俺の背後から、ホモモーンと思わしき声が聞こえ振り返った。そこには、俺が今まで見たことも無いような……姿のホモモーンが立っていた。


「――っ!!」


 全裸に近いと言うよりは、紐を纏った彼女の姿にポカーンと口を開けただ見つめてしまった。


 大事な? 胸のぽちりの部分と下半身の前だけを濃い色のピンクの生地でハートを作り紐で結んで隠している。

 その上に、肌がスケスケに見えるピンクのレースの衣を纏っただけの姿をしていた。

 なんだありゃー。ひ、紐か? 否そうじゃねーな。なんつったっけか? えっと……ほら、あれだ……べ、ベビードールってやつか!? 


 漸く思いだしたベビードールと言う単語に、一人ポンと手を打ち合わせ頷いた。

 はースッキリしたぜ!


「竜馬。お願いがあ・る・の・ん!」


 俺がベビードールを思い出している間に移動していたらしいホモモーンが隣に腕に左胸を押し当てながら右手人差し指を立て、口の端に当てお願いがあると言って来た。

 ホモモーンには部屋の事で世話になったしな……お願いなら聞いてやりてーところだ。


「おう。なんだ?」

「あのね……あたしと一緒に一晩ベットに寝て欲しいのん」

「い、いっしょにか?」

「そう、い・っ・し・ょ・に♪」

「そ、そうか……少し考えさせてくれ……」

「そこは、男らしく即決してん。ね? た・つ・ま」


 一晩一緒に、嫁以外の女と寝るのは流石に浮気になるんじゃねーのか? それに、ホモモーンのこの胸の感覚に理性を保てる気がしねぇ……けどよ、こいつには世話になったわけだし、恩を返してやりてぇ。うおぉぉぉ、俺はどうしたらいいんだぁ!


 ない脳みそを必死に回転させて考える俺を余所に、ホモモーンはいつの間にか俺の身体をその細い腕でお姫様抱っこするとハート型に作られたベットの上へと運んだ。

 優しくベットに降ろされた俺の身体の上に馬乗りで跨り、唇を舌で舐めるホモモーン。


「おっ、おいおい。ちょっ! ちょっと待てぇ!」

「だぁ~め♪」


 両手でホモモーンを必死に止めようとした俺を無視して、ホモモーンはその肢体に纏ったレースの紐を解き一枚、一枚、時間をかけ脱いで行く。

 胸のぽちりを隠していた紐が外されそのぽちりが姿を現す刹那、俺は両手で両目を覆いそれを見ないようにした。


 ダメだ! このままじゃダメだ! 俺は(未来の)嫁を裏切る事は出来ネェ! すまんホモモーン!


 ホモモーンに謝りながら、ポケットに常に入ってる剣山に手をかけ「秘儀☆剣山」と絶叫した。居ないはずの花子が何処からともなく現れ、大きくなるとその口から舎弟たちが流れ出てくる。


 俺の状況をみた舎弟の一人、みっちゃんが「兄貴~! 童心の誓いは何処にいったんですかい!」と泣きながら寝そべった状態の俺の横に座る。


「俺はその誓いを守りたい! 皆すまん、この女をどかしてくれ!」

「流石です! 兄貴ぃ~!」


 次々と現れた舎弟たちに驚き呆けた状態のホモモーンに、ジョナサンが近付き五円玉を垂らした。そして、ゆっくりゆっくり左右に振られる五円玉を見つめたままのホモモーンの眼がその五円玉の動きに合わせ動く。


「貴方はだんんだんねむくな~る。貴方はだんだんねむくな~る」


 ジョナサンの言葉にホモモーンが徐々にその瞼を降ろし、完全に眠ったところでその身体を四人掛かりでベットに寝かせる。

 仕事を終えたジョナサンが、額を拭いながらドヤ顔を決め「兄貴! これで明日の朝まではおきぃませ~ん」と、いつもの調子で俺に伝える。


「おう。わりーな……クリスマスなのによ。おめーら呼びだして悪かったな!」

「謝らないでくだせー。クリスマスだろうと、舎弟の俺たちは、兄貴に呼ばれれば何処にでも駆けつけますぜ!」

「ありがとうな。ダイゴロウ」

「いえいえ。兄貴の貞操に危機だったんっすから気にしないでくだせ~!」

「皆もありがとうな!」

「「「「「「「へい!」」」」」」」」


 なんつーいい奴らなんだ……俺の舎弟たちは本当に最高だ! 目頭が急激に熱くなるのを感じて瞼をきつく閉じた。


 どれぐらいそうしていたのかは分からない、泣きそうな俺に気付いたらしいダイゴロウの手が俺の肩を何度か叩き「兄貴ぃ。俺らは兄貴の味方っすから~」そう言うと、「じゃ、ソロソロ時間なんで! 明日の忘年会楽しみにしてますぜ!」と言ってと帰って行った。


 なんだかなぁ……ていうか、俺はそっちの世界に帰れないのか? と何度か思ったが、(未来の)嫁と娘と離れないためにはこちらの世界にいることを選んだ。


「はぁ~。部屋に戻るか。ホモモーン、オメーの気持ちには答えてやれねーけどよ……俺ができることであればいつでも協力してやるからな。ゆっくり休みな」


 部屋の扉を抜けざま、振り返った俺はホモモーンの覚悟を知ってありがたいと思いつつもはっきりと断りの言葉を入れる。

 メルディスを愛しているからこそ、受け入れてやれない。どんなに思ってくれても返してやれない。だからこそ、友として彼女が困った時には助けてやりたいと思った。


 部屋に戻り畳の上に布団を敷いて横になる。

 思い浮かべるのは最愛の人メルディスの事だ。ホモモーンとあんな風になってしまった事で、彼女の事が恋しくなった。

 呼んでしまおうか……? 否、流石にこの時間は寝てるだろう。いつかここにあいつがいたらいいな。

 そう思いながら、自身の左肩を見つめ瞳を閉じた――。

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魔王城かよっ!~転移した、ヤクザの若頭 with 剣☆山~ ao @yuupakku11511

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