第9話 クリスマス 特別版②

 寒気を感じぶるりと身体が震え目が覚めた。いつの間にやら眠ってしまっていたらしい。全身が固まっているような感覚に、手足を伸ばし背伸びをすると起き上がり、朝一番の日課である花子に餌をやりつつ挨拶を交わした。


「花子。おはよーさん」

「パクパクパク」


 おー今日も元気よく食ってるな。よしよし。

 元気に餌に飛び付く花子を見て頷くと、風呂を済ませに1階へ向かった。


 長い廊下を歩き、骨とすれ違う。

 ここには複数の骨が居て、今すれ違ったのは多分だが、魔王付きの骨だろう。頭の部分に月のような割れ目があったことからそう思った。


 風呂に入ったところで、余りの気持ちよさに鳥羽の兄貴の至高の曲、兄○船の鼻歌を歌いながら風呂に浸かる。

「ふ、ふ、ふん~ふふんん~ふ、ふ、ふ、ふんふ、ふっふん~ん」

「ご機嫌Death★ね」

「うぉぉぉぉ! びっくりしたぞ」


 突然出て来た、娘に驚いた俺は絶叫してしまった。風呂場に反響する声に、喉を鳴らし居ずまいを正すと娘のあられも無い姿に、急いで視線を右に投げた。


「どうしたDeath★か?」

「あ、いや、なんでも無い。先にあがるからお前はゆっくり浸かってこい! いいなっ!」

「はい。Death★」


 前を隠し、急いで風呂場を後にすると濡れたまま服を着て、走って部屋まで戻った。まさか、まさか、娘の裸を見ようとは思わなかった!

 未だ育ってはいないが……だが、父親が娘の裸を見るなんてこたぁー親父としてやっちゃーいけねぇことだ。サツにタレこまれても文句は言えねぇ。


 未だと問わない息をなんとか整え、息を吐き出し炬燵に潜ろうとしたところで白い封筒が目に入った。

 そう言えば昨日骨がと思いだしたように手紙を手に取り封を切った。そこには、読めない文字が書かれていた。


「うーん。これはどうしたらいいんだ? 流石に読めね―しなぁ」


 突然花子が水槽から飛び出したかと思えば、その口を大きく開いた。と花子の口から舎弟の一人であるダイゴロウがその口の上下を両手で閉じないよう押さえながら顔を出した。


「兄貴! 忘年会どうしやすか?」

「おう。そうさなぁ……親父はどうしてらっしゃる?」

「親父は、姉さんと銀婚旅行でハワイにいってますぜ!!」

「そうか……じゃぁ、おめーら全員こっちで鍋でも食いながらドンチャン騒ぎするか!」

「へい! それで、いつにしやすか?」

「そうさなぁ……じゃぁ、明日の夜にするか!」

「へい。じゃぁ皆に伝えときやす!」

「おう!」

「じゃぁ、兄貴。当日また準備出来たら顔だしやすんで!」

「おー。きーつけて帰れよ」

「へい。失礼しやす」


 ダイゴロウの顔が花子の口の中へ引っ込む。すると花子が腹を見せぷか~と浮かんでしまった。


「はっ、はなこぉぉぉぉぉ!」


 名前を呼びながら花子の水槽にしがみ付き、手で触れようとした刹那花子は、何事も無かったようにひっくり返ると水槽の中を泳ぎ始めた。

 ふぅー。あぶねぇ親父の大事な娘、花子を死なせるとこだったぜ。もし花子を死なせたら、それこそ俺が東京湾に沈む事になるとこだった。


 一人息を吐き出し安堵した。

 明日は舎弟たちとの忘年会か。そういや、今日はクリスマスイブじゃねーか。聖なる夜か……あっ、そう言えばホモモーンがなんか言ってなかったか?

 

 確か、今日の夜魔王城の地下に一人で行けばいいんだっけか? 

 まぁ、夜になったら行ってみるか。折角、くれたんだしな使わないのも申し訳ねぇ。人の行為はありがたく使わせてもらうものだと親父も言ってたしな!


 銀婚旅行で姉さんと一緒にハワイに行っている親父を思いに楽しんでくだせぇと心の中で伝えた。

 流石に毎回親父を思い浮かべるのも悪いと思い今日は止めておいた。


 クリスマスはケーキにケン○ッキーを用意して、後は眠った子供にプレゼントを渡す日だったと記憶していた俺は、(未来の)娘のためにクリスマスの用意をしてやる。

 ケーキは二個、魔王もいるし持って行かせるには二個必要だろうと思って、多めに用意した。

 

 準備が整い窓の外を見たら、未だ陽は高い。

 まー、少し早いが呼ぶか……! 

 まずは、魔王の部屋が近いから魔王の部屋から、とそこで骨に出くわした。


「おう! おめ―も参加しろ? クリスマスイブって言う祝いだ!」


 首の骨を器用に動かし、コクンコクンと頭を振る骨の背中を軽くポンと叩いて誘った。

「カタカタッ」と歯をかみ合わせ音を出しながら、去って行く骨。

 

「分かったのか??」そう独り言を零し、魔法の部屋の扉を叩いた。返事は無いが飛びが三センチほど開いた。相変わらず人と会う事が苦手らしい魔王に要件を伝えてやる。


「おう。10分後によークリスマスイブやるからよー。おめーも来いよ。ケーキとか色々用意したからよ!」

「……くりすます、いぶ?? 良く分からないけど行く」

「おう! 待ってるぜ~。じゃーな!」


 軽く手を振り魔王の部屋を後にする。次は娘とホモモーンだが……そう言えば俺は部屋を知らないんじゃないか?

 うーん。まぁ、全部回って行けばいいだろ。そう思ってさっさと全ての部屋の扉を開けて行った。


 二階に下りてトイレの手前の扉をノックしたところで、(未来の)娘の声が聞こえた。

 扉から出て来た娘に、少しだけ時間を貰いクリスマスイブをやる事を伝えてやる。


「おう。5分後によー部屋に来い。クリスマスイブやるからよ。プレゼントも用意してあるからよっ!」

「くりすますいぶDeath★か? 良く分からないけど……行くDeath★」

「おう。待ってるぞ!」


 手を振る娘に手を振り返し、次はホモモーンを探す。けれど、どこにもいなかった。時間になり仕方なく、部屋に戻れば娘と魔王が――壁の隙間から覗いて――いた。

 

 そうだった、一番大事な奴を呼ぶのを忘れていた。大きく息を吸い込み、嫁の名を叫ぶ。すると、蝶がふわふわと飛び一人の女性を形どった。呼んだのは勿論(未来の)嫁である、メルディスだ。


「お呼びになりまして? 旦那様」

「おう。クリスマスイブするからよー。おめーも好きなだけ飲んで食えよ!」

「あら、嬉しいわ♪ パーティ―に呼んで下さるなんて!」

「さぁ、おめ―たちも座れ!」

「ありがとうDeath★」

「カタカタカタ」

「ありがとう。竜馬」

「おう!」


 炬燵の上に準備をしておいた料理や飲み物を皆で食べる。

 家族つーのはこう言う事を言うんだな……俺ぁは幸せものだなぁ~。未来の妻と娘。そして、お手伝い状態の骨と壁の隙間から覗き込む魔王に温かさを感じ、食卓を囲む大切さを思い出した。


 カラオケも必要だと思って出したのだが、歌えるのは俺しかいなかった……。他には何があるか考えて麻雀や花札を出してみたりもしたのだが、それもまた俺しかできなかった。


 嫁と娘と魔王と骨とホモモーンにも一応プレゼントを用意していたので、手渡し出来る奴にはその場で渡してやる。

 ぬいぐるみを抱え喜ぶ(未来の)嫁と娘の姿に俺の心もほっこりと癒された。魔王は喜んだかは分からないが、日本の有名アイドルの写真集にした。


 ホモモーンの分の料理とプレゼントは骨に頼み届けて貰うことに。


 余興も終わり、皆でワイワイしていたのも束の間メルディスが、どうやら呼ばれたらしく帰ると言い出したのを皮切りに皆それぞれお礼を言いつつ楽しかったと言う言葉を残して自室へと戻っていった。


 酒を飲み久しぶりに酔っぱらった俺は、そのまま炬燵で爆睡――。




 誰かに揺り起こされる感覚に目覚めた途端目の前に骸骨があり「ヒッ!」とビビった声を上げてしまった。

 良く見れば、骨だ。真っ暗な室内でロウソクを持った骨を、知人の骨だと判別するのは酷く恐ろしい……と、俺はその日、初めての恐怖を味わった。


「どうした?」

「カタカタタ、カタカカカカタ」

「んー。良く湧かんね―けどついてこいと言ってるのか?」

「カタ」


 骨は手を扉の方に向けると手招きをする。声にだし着いてこいと言っているのかと言えばそうだと言わんばかりに歯を鳴らした。

 薄暗い魔王城を骨に連れられ歩く。見知った老化のはずなのに夜は知らない場所のように感じた。

 

 階段に差し掛かり、何処まで行くのかと聞いたのだが骨はそのまま階段を降りて行く。

 それに釣られるように階段を降りて、地下までやってきた俺を有る扉の前で止まった骨が、歯をカタカタ鳴らし呼ぶ。


「おーここかー? ってこの鍵……もしかして、これか?」

「カタッ!」

「おぉ! ワザワザ俺の為にお前連れて来てくれたのか! ありがとうなぁ!」

「カタタタ!」


 あのままだと確実に眠って起き無かったであろう俺をワザワザ起こして連れて来てくれた骨にお礼を言う。

 開き戸になった扉の外側に、異色に近い金の鍵穴がある鍵がかかっているのを見つけた俺は早速、ホモモーンに貰った鍵を差し込んだ。

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