第5話 若頭、魔王と邂逅す?

 魔王の間の扉の前で、まずは義理を通すため正座をしノックをすると同時に親父直伝の口上を述べる。


「ご多忙中とは思いやすが、突然の訪問失礼いたしやす。

 俺は、車道連合会所属、城ヶ島組の会長補佐兼若頭をしております。

 姓は斉藤。

 名は竜馬と申します。

 今代魔王さんにお会いしたく訪問した次第でごぜーます」


 そう口上を陳べれば、扉がほんの数センチだけ開いた。入室の許可が下りたと思い立ち上り顔を上げた所で、隙間から覗く三白眼と目が合った。


「――っ!!」


「あっ、どうしよう。知らない人と目合わせちゃった。おいら殺される? 殺されるの?」


 扉の隙間から三白眼の瞳が見えなくなったと思えば、気恥ずかしそうに殺されるといい続ける男の声音が聞こえた。

 これは、どう……したらいい? 部屋に入っていいのか? それとも待つべきなのか?!

 こんな時親父だったらどうする……? そう思いつつ扉の上を見上げ親父を思い浮かべれば、親父は親指を立てサムズアップすると、首を扉の方へクイと指し示した。

 

 わかったぜ、親父! まずは相手を知れってことだな!

 親父の言うとおり、相手の様子を伺うため扉の隙間に近づき、片目を閉じて中の様子を伺おうと覗き込めば、扉の厚みしか離れていない位置にあった三白眼と目が合う。


「ぁ……」


「Foooooooo!!」


 余の事に奇声を発し、扉から後返りしつつ離れた。

 びっ、びびったー! なんで、あいつは扉の前にいるんだっ! あんな声を扉にたったままだしたてーのか? 

 まさか扉の側に立ったままだとは思わなかった……これには流石の俺でも動揺した。


 昔、組の慰安旅行で行った、茨城にある日本一を誇る竜神りゅうじん大吊橋おおつりばしでやった、バンジージャンプの飛び降りる寸前のような動悸の早さを感じた。


 動揺を落ち着かせるよう自分に言い聞かせる。

 落ち着けおれー。とりあえず、深呼吸だ……ふぅーふぅー。


「えーっと。それでなんの御用ですかっ?」


 扉を数センチ開けた状態のまま魔王は、俺に用件を聞いてくる。

 まさか、ここで話すのかっ? それは、流石に……。

 そう思いつつ、中へ入れてくれるよう頼んでみるも入れる気がないようで扉は開かなかった。

 仕方なく扉越しに話しをすることにした。


「えーっと、魔王さんでまちがいございやせんか?」


「うん。そうだけど……何?」


 魔王は、俺の質問に対し、なんとも気弱そうな声で返事をする。

 そういや、こういう奴見たことあったなぁ……。義兄弟の手伝いで、金の取立てに付き合った時にこういうやつがいたなー。


 懐かしい義兄弟の顔を思い出し少しだけほっこりした。のも束の間、魔王との会話中だったことを思い出し、さっそく説得を試みる。


「あるマブい女からの情報で、おめーさんが異界から魔神を呼ぼうとしてるつー話しを聞いたんだが……事実か?」


「異界の魔神?? 私そんな事してませんよー! 確かにっ確かに女神であるメルディス様から、キャラリン様へ推しを変更しましたけど……それ以外は何もしてないですよー! まぁ、メルディス様は、妖艶で豊満なラインが凄くエッチぽくって好きだったんですけどね。でも、キャラリン様のあの絶壁だけどそれを感じさせない、可憐で華奢な感じが最高に尊くでですね、いいんですよ! それでですね……あぁ、もう語り出したら止まらなくなるんですけど……最後まで聞いてくれますか? いや、もう聞いてもらいます――」


 良く判らないことを永遠としゃべりつづける魔王に相槌をうち、長くなりそうだなと思い廊下に胡坐をかいて座った。

 俺の様子など気にした様子も無く、扉を数センチ開けたまま魔王はキャラリンがいかにすばらしいかを俺に説く。


 その話しを聞きつつ、先程の魔王の言葉を思い出し自分なりに解釈してみる。

 つーことはだ、最近までメルディスに惚れていたが、異世界の女神キャラリンに横恋慕したってことか? 

 じゃぁ、何か? メルディスは魔王から崇拝されなくなったから殺せつったのか? 


 つーかこいつ、ただの女神好きなだけだろ……メルディスの言う異世界の魔神が、異世界を守護するキャラリンと言う女神だったと言うことだ。

 

 現代日本風に言えば、アイドルの推しを変えたことが原因だ。

 惚れたはれただけで命を狙われるなんざ、人道に反する行為だ。

 そんなくだらないことで、人様の命を奪おうってのか? とメルディスに対し憤りを覚えた。


「メルディスーーーーー! ちょっとココまで降りてこいこらぁぁぁ」


 突然大声で叫んだせいで、驚いた魔王はバタンと音を立て扉を閉めてしまうが今はそれどころではない。

 たかが推しメンの変更をしただけで、殺せと命じるメルディスに説教をするため呼び出した。

 蛾がふよふよあつまり鱗粉を撒き散らすと、その中央にメルディスが幼い姿で現れた。


『うふふっ。竜馬さん、お呼びですか?』


「あぁ。ちーとばかし、おめーに聞かなきゃならねーことができてよー」


『あら、なんでしょう?』


「なぁ。メルディス……おめー俺のことだましてねーか?」


 普段どおりの様子で登場したメルディスに直球で騙していないかと聞けば、ピクッと肩を揺らし、視線を彷徨わせると、メルディスは額に汗をかき始め、あきらかに動揺してみせた。

 首を倒し、瞼の裏が見えるほど眼球を上げメルディスを見れば、ポタポタと顎から床へと汗が滴り落ちる。


「答えな」


 そう短くドスの効いた声音を出し、真実を確かめる。


『だっ、だってぇぇ~』


 うるうる瞳を潤ませ、両手を目の下に当てたまま泣きはじめたメルディスは、本当のことを話しはじめた。

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