第4話 若頭、幼女と出会う

 ホモモーンと別れ暫らく歩いてみたのだが、どうやら道に迷ってしまったらしい。怪しい扉がいくつも連なる廊下で、ひとり溜息を吐き出しこれから先をどう進もうか思考する。


 誰かに道を聞こうにも、人っ子一人いない廊下に並ぶ扉には、ひとつひとつに狼の絵だったり、ドラゴンの絵だったりが書いてあり、扉をノックし開けてみるのもありかと思ったが、どれが魔王かわからない今、全部を一気に敵に回すのは良くないと無い頭で考えた。


「はぁ~。こんなことなら入り口までホモの奴に、道案内頼むべきだったかもしんねーな……。

 否、それじゃぁ、漢の意地が廃るってもんだな! 

 意気地のねぇ漢だと、メルディスに思われるわけにはいかねー。

 ここは一つ、全部の扉を開いてみるか!」


 そう決意して、まずは狼の絵に描いてある扉の前に正座して座り、軽く扉をノックし声をかける。


「失礼しやす! ご在室でしょうか?」


 ――返事が無い。どうやらこの部屋の住人は居ないようだ。そう思い隣の蝙蝠の扉へと移動する。

 さっきと同じように正座して、扉を軽くノックする。


「失礼しやす! ご在室でしょうか?」


 同じ言葉だが、これが一番失礼がないだろうと思いそう声をかければ……。


「今、ボクが入ってますDeathデス★」


 と返事が返ってきた。


「これは、大変失礼いたしやした!」


 ついそう返事を返し、次の扉へと移動して正座したところで、待てよと思い直し蝙蝠の扉へと戻った。

 再度ノックして、中にいるであろう女性へと声をかけ直す。


「何度も申し訳ございやせん。そのここはどういった場所でござんしょう?」


 暫らくすると扉の中から、なにやら水の流れる音がして扉が開く。

 そこにはとても、フワフワとした黒いドレスを見に纏い、胸元には赤い薔薇がワンポイントで飾られた。

 愛らしく幼い姿の青色の肌をした頭から黒いレースを被った少女が、腰に手をあて仁王立ちしていた。


「ボクに何の御用Death★」


「これは、大変失礼をいたしやした。

 俺は、車道連合会しゃどうれんごうかい所属、城ヶ島組じょうがじまぐみ会長補佐かいちょうほさ兼若頭けん わかがしらをしております。

 姓は斉藤。

 名は竜馬と申します。

 不躾にお伺いいたしやすが、魔王の間とは何処にいけばよろしいんでしょうか?」


 失礼があっちゃならね~からなと考え。

 扉が開き少女の姿を確認すると同時に、正座から、片膝のみを立て中腰になると、右掌を前に出し。

 親父直伝の名乗り口上をあげ、少女へ魔王の間への行き方を聞く。


「しゃどうれんごうさんDeath★」


「いえ、車道連合会所属、城ヶ島組の若頭をしております。

 姓は斉藤。

 名は竜馬と申します」


「ボクの名前は、プンティーだよDeath★

 魔王様の部屋ならここじゃなくて戻るDeath★ もう一個先の角を右に曲がるDeath★」


 とうやら一本早めに右曲がってしまっていたことが発覚し、教えてくれたプンティーへ礼の意味をこめ甘いであろうイチゴ味を選び差し出した。

 不思議そうな顔で飴を見るプンティーに、袋を破り指で摘まんだ飴を見せれば匂いを嗅ぎ、嬉しそうに笑うとそのまま指ごと飴を口へと頬張った。


「うぉっ!」


「ありがとDeath★こんなに美味しいの食べたの初めてDeath★」

 

 そう言うと、俺の手を握ろうとしたプンティーは、ハタと何かに気付き「手を洗ってくるDeath★」と言うと、ドレスの裾を靡かせ丸い球体へと手を突っ込んだ。


「ところでよー。ここは何をする場所なんだ?」


 不思議に思っていたことを聞けば、プンティーは少し恥らった顔を見せると頬に手をあてた。


「女子トイレDeath★ エッチDeath★」


 そして告げられた事実に驚愕し、天を仰いだ。

 なっ……おっ、俺はっ、まさか……プンティーの邪魔をしたんじゃ!! 最低野郎じゃねーか!

 サーっと引いていく熱を感じ、プンティーへ謝罪しようと両手を突いた所で、彼女は俺に手を差し出してくる。


「どうしたDeath★

 そんなことより、四天王のボクが連れて行ってあげるDeath★」

 

 怒っていい所なのに、気にしたそぶりも見せず、わざわざ連れて行ってくれるとまで言ってくれた。

 最高にいい子じゃねぇかぁ。こんないい娘っ子が四天王だなんてな……なんて世界だ!

 プンティーの境遇を考えていれば、鼻の奥がツーンとし目頭が熱くなった。


「すまねぇな、プンティーその……ここに居るのはつらくねーか?」


「ボクにとってココは居心地いいDeath★ それよりも早く、そこで手を洗うDeath★」


 親父、俺はこいつをまともな家の娘にしてやりてー! どうすればいい? 俺が何かできることはねーか? そうだ! 俺の娘にすれば……そう考え、天井を見上げ親父を思い浮かべれば、親父は首を横に振っていた。


 やっぱり母親のいねー家庭じゃだめっすよね……わかりやした親父、メルディス口説き落としてから誠心誠意彼女を説得して、プンティーを養女にすることにしやす!


 手を洗い終え、プンティーの差し出した手を握り、魔王の間まで案内してもらうべく歩き出した。

 移動中、もう一個飴が欲しいと言うプンティーにイチゴ味の飴を渡してやりながら、魔王についてのリサーチをする。


「魔王って奴はどんな見た目をしてんだ?」


「魔王様は、ボクが知る限りDeathが、凄く優しい王様Death★」


「そうか……じゃぁ、プンティーは魔王が倒されたら嫌か?」


「ボクにとって魔王様は一人じゃないDeath★」


 なんと、魔王を倒せば悲しむと思っていたのだが、魔王は一人では無いらしい。

 理由を聞けば、魔王は倒されれば交代するものであり、今の魔王は優しいため直に倒される。と思っているらしい。


 何と言うか、俺は余所の世界の人間だからよー。惚れた女のために魔王を倒そうと思ったんだが……。

 本当にそれが、正義なのか? 俺としちゃーよー。この世界が平和になれば良いだけだからよー。

 異世界から魔神を呼ばないよう説得すればいいんじゃねーか? 

 そう考えまずは、魔王に会ったら説得しょうと腹に決めた。


「ここが魔王様の部屋Death★」


 無い頭で必死に考えていた間に、どうやら魔王の間に着いてしまったようだ。

 プンティーの礼がてら、残っていたイチゴ味の飴を全て渡してやれば、スキップしながら来た道を戻る。

 曲がり角に差し掛かったところで、振り返ったプンティーは「ありがとDeath★」と言いつつヒラヒラと黒いレースの手袋をつけた手をフリ、今度こそ去っていった。

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