第3話 若頭、武器を知る

 でかい城の中を歩き回ること数時間、中庭へとやってきた俺は人気が無いことを確認すると、メルディスに教えてもらった動作を真似て武器を呼び出すことにした。

 流石に魔王って言う名前からして、それに会うのに得物も持ってないじゃ話にならねーだろう。と考えたからだ。


 ふー。大きく息を吐き出し数回深呼吸を繰り返し、気合を入れて腕を伸ばし右手人さし指を天へと向けた。そこから時計回りに一回転させ、左足のかかとを立て突き出すようにして、右手を前に突き出し親指を立てる。


「武器、見☆参」


 けん☆ざんは、裏声を使い高めにした。そしてウィンクを必死に頬を引き攣らせてやれば、左手の掌から光る物体が現れた。

 右手じゃねーのか……まぁ、いいこれで安心して魔王を討伐できるってもんだ!


 そう思いつつ、光る物体を握り締めた途端、指先にチクチクと痛みを感じた。

 ドスってこんなにチクチクしたか? そう思い見てみれば、左の掌には異常に尖った針山が見える……。


「ってこれ、剣山じゃねーかーーーーーーーーー!」


 ドスだと思っていれば、剣山で……刺さった指先から滴る血に気付かず叫びを上げれば、たまたま近くにを通りかかったらしいホラー映画にでも居そうな骨が、俺の声に驚きカタカタと音を鳴らし崩れてしまった。

 親父の教えが脳裏に浮かぶ。

『いいか。竜馬……例え敵でも、困ってるやつがいりゃぁ助けてやれ』と……その言葉に従い、介抱するため慌てて駆け寄り、自分の非をまずは謝罪して手を貸すよう差し出せば、骨は歯をカタカタと鳴らした。


「すまん。お前の言葉わかんねーわ……接着剤ないのか?」


 崩れた骨をくっ付けるため、接着剤は無いかと聞けば手首から先だけが動き出し、自分で骨を組み立てていく。その光景があまりにも器用で繊細だった。


「うぉぉ。おめ~すげぇなぁ~!」


「カタタタタッ」


「おっ、おう。何いってっかわかんねーけど、良かったな無事で!」


 そう言って、手を握り起してやれば骨は、そのまま歩いて何処へ行ってしまった。

 って……俺は何をやっているんだっ! それどころじゃねぇ!! 問題はこれだっ。

 

 左手に握った剣山を再度凝視するも、どう見てもドスではなく剣山だ……。

 メルディスに言った言葉を思い返し、ハッと気付いた……『小さい剣だ! 多ければ多いほどいい!』と、確かに、確かによぉ……。小さい剣とは言ったが、これじゃねぇよ……これは針つーんだ……。


 はぁ~。仕方ねぇこうなりゃ、これでやるしかねーか!


 剣山をズボンのポケットへ直しこみ、右手で拳を握り左の掌へ打ちつけ首を左右に振り、気合を入れ直す。魔王ってやつさえ倒せば、メルディスは俺に惚れるだろう……。

 ニヘっと凶悪な笑いを浮かべ。メルディスを抱きしめ口説く言葉を妄想しつつ、魔王城の廊下へと一歩踏み出した。


 二階への階段を見つけ登りはじめたところで、ナイスバディーの蝙蝠の羽を着けた女とすれ違う。


「おっと、あぶね~!」


「キャンッ」


 すれ違いざま、女が階段を踏み外し落ちそうになったところで、腕を出し女を支えてやった。

 掌に感じる柔らかな感触を確かめるよう、何度か指先を動かしてみる。

 この、メロンにもにた大きさ、そして柔らかな感触、掌にかすかに感じる凹みはっ……まっ、まさか、pi-----自主規制音ではないのかっ!!


「それにしてはいいモノもって――」


「あーん。もっと、もっとしてくれなきゃ、殺しちゃうぞぉ☆」


 褒めようとした刹那、女だと思っていたナイスバディーの口から、ごつい男の声がすると同時に細い腰のナイスバディーだったはずの体が、ボディービルダー選手権優勝者並の筋肉マッチョへと変化する。

 そして、胸部からボトリとおちる何か……透明な丸みを帯びた顔を持つ何かが、階段を伝い急いで何処かへ去っていった。

 それを目で追っていた竜馬の耳に、ごつい男の鳴き声めいた声が届いてそちらを振り向けば――。


「あたしのおっpi-----自主規制音がぁ、逃げちゃったじゃないのぉぉぉ!」


 男女が、両手で顔を覆い叫ぶ。

 慰めようかと声をかけようとしたところで、顔を上げた男女は、牙の生えた口をにやぁ~と歪め、両掌をコチラへと向け今にも襲いかからんとする。


 身に危険が迫った気がして……つい、がら空きの腹へ拳を捻り、めり込ませてしまった。


ドゴッ


 重い石の砕ける音と共に、男女が壁へとめり込んだ。


「え? イヤイヤイヤイヤ。俺の腕力そこまでねーYO!」


 今までこんな事は無かった……つか、人間の俺に岩砕けるほどの腕力なかったはずだ! と突っ込みを入れつつ、拳をゆっくりと離してみれば拳の先端に、先程ぽけっとに仕舞ったはずの剣山が張り付いていた!


 まさかっ、こいつのおかげか? そう首を捻り考えていると男女の声が聞こえた。


「あ~ん! お尻が嵌ってぬけないわーん☆」


「おめー。無事だったのか! すまねぇ。なんだか身に危険が迫った気がしてよぉ~」


「うふっ。この程度……最雀さいじゃくの魔王様の配下である。四天王がひとり、ホモモーンには大したことないわ☆」


「なるほど、おめ~は魔王の配下かっ」


「えぇ、そうよ……でも、あたし負けちゃったし……今からあなたの配下に加わるわん☆」


「配下か……舎弟みたいなもんか! ありがてーことだが、断る!!」


 目を潤ませ腰を前後に動かしつつ、配下に加わると言う四天王ホモモーン。

 舎弟は可愛いが、例えホモでも女を闘いの場に連れていくのは、漢じゃねぇ!! そうだろ親父。

 壁を見上げ、親父の姿を思い浮かべれば親父は、大きく頷いていた。


「どうしてぇ~☆」必死に縋りつくホモモーンのゴツイ手を優しくどかす。


「お前は美人だがな……男の戦いに女を巻き込むわけにはいかねーだろ?」


 決め台詞っぽいセリフを伝えてやる。

 激しく腰を前後するホモモーンは、頬を染め嬉しそうな顔をすると片目を必死に瞬かせ、アピールしてくる。


「だめだっ! やっぱりおめーは連れて行けねぇ。その代わりといっちゃぁなんだが、これでも食って待ってろ」


 そう言って、ズボンのポケットから飴を取り出し投げて渡してやれば、両手でそれを包み込み頷いた。

 その後、魔王の居場所と道を聞き出し、ホモモーンの野太い声援を受け階段を登った。

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