第2話 若頭、魔王城の在り処を知る

 瞼を開けば、鬱蒼とした森に居た……頭をガシガシ掻き毟りながら周囲を見回す。


「なんだここは、これがいっぱっ……って、なんでぇこのでけー要塞は!」


 俺の視界を覆いつくすでかい壁に驚き、見上げてみるもその先端が全く見えない。


「はぁ~。異世界ってのはすげ~もんだなぁ~」


 その大きさに簡単の言葉を吐き出し、まずは得物の確認をしなければと思い出した。

 どうやんだこれ……? 


 はっ、となり気付いてしまった……


 胸を叩いてみたり、腰に手を置きポーズを決めてみたり、ハタマタ昔見たヒーロー物の変身シーンを真似してみたりしたが結果は変わらず、結局武器は出なかった……


「うぉぉぉぉい。メルディス! ドスの出し方がわかんね~ぞこらぁ~!」


 お手上げ状態とはこのことだろう。仕方なく空を見上げメルディスへと大声で叫んだ。

 すると、何処からともなく蛾が飛んでくると、鱗粉を振りまきはじめる。


 それを顔を引き攣らせ見ていた俺の目の前に、メルディスが姿を見せた

 つっても、すげぇ~小さい子供なんだが……流石にこれには萌えねぇなぁ~。と考えている俺に、会った時と変わない声でメルディスは問いかけた。


『ふふっ。竜馬さん……早速どうなさったのですかっ?』


「すまねーなぁ。わざわざ来て貰ってよ。ドスはどうやって出すんだ?」 


『あっ――!』


 一瞬だったが、しまったというような表情をしたメルディスは「よく見ていてくださいね」そう言うと、右手ひさし指を立てると腕を伸ばし腕ごとぐるりと回し円を書いた。

 その後、右手人さし指と親指を立てた状態で、正面に突き出す。それと同じく、左足を伸ばしかかとを着いた状態い立て「武器、見☆参」とウィンクしながら言えと言う。


「おっ、おぅ……」


 ヤクザな俺が……あれをやるのか……流石に、無理じゃねーか? 

 そう考えていると小さなメルディスが、腕を絡め聞いてくる。


『できそうですか? 練習してみましょう』


「いっ、いやいや、こう言うのはあれだ、一人のときにやるもんだろ?」


『そうですか~。残念ですね……、見たかったのですけど……』


 うーん。今の言葉尻に(笑)と付くような気がして、眉根をよせメルディスを凝視すればアタフタと慌てるよう視線を逸らした。

 まぁ、この程度のことで怒るこっちゃねーけどよ? お前……今絶対面白半分だったろ?

 そう心の中で語りかけ、大事な事を聞くべく彼女の肩に手を置く。


「もうひとつ、大事なことを聞きたかったんだがよ」


 ピクっと肩が震えるのを、置いた掌で感じるもそれには突っ込まず、聞きたいことを先に聞いてしまう。


『なっ、なんでしょうか?』


「魔王はどこいんだ?」


『あぁ~。それでしたら……こちらに』


 そう言って、メルディスが指差した方へ視線を向ければ……壁だ。

 ん? こっちの方向にあるってことか! なるほどな!


「こっちの方角なのか」


『いえ、ここに住んでいますよ? 魔王でしたら』


「本気で言ってるのか?」


『はい』


 メルディスは幼いながらにいい笑顔を見せ、大きく頷いた。

 衝撃の事実が、この時、発覚したのである!! この壁の向こうに魔王が住んでいた――。 


 その後、放心する俺の耳に小さく『そろそろ時間ですね。そうでした、秘奥儀を使うときは、腕を二回回して『秘儀☆見参』と言ってくださいね。では~』と言って帰っていく女神の声が聞こえた……。


 なんてこった……まさか、この向こうに魔王ってやつがいるとはよー。つーかまず、魔王ってなんだ?

 ふと、ゲーム好きの舎弟の顔が思い出され、ひとり後悔する。こういう時のために、ゲンの説明をしっかり聞いときゃよかったぜっ。


 まぁ、何にせよ夜にカチ込みは卑怯ってもんだ! サツも朝しか来ねーしな。お天道様が昇ってから魔王って奴を討伐しにいくか~。



 頭をガシガシ掻きながら、森のほうへ歩き出せば、焚き火の明かりが見えそちらへとゆっくり歩いて近づいた。

 見える影に違和感を感じるも、夜と言うこともあり一晩世話になりたい旨を伝えるため、その顔に笑顔を貼り付け声をかけた。


「おぅ。すまねーが一晩ひー貸してくれねーか?」


「ぐぎゃっ!!」


「なんでぇ~。驚くことね~だろ。俺は、竜馬つーんだ。おめーさんたちはなんて言う――」


 そこで、漸く相手の姿が見え、言葉が切れてしまう。

 えっと……こいつは、確かゲンがやってたなんつったか……あれに出てた子分林ごぶりんってやつじゃねーか!


「ぐぎゃぎゃ!」


 ん? なんか避けてくれてるじゃねーか。なんだよ、いい奴らじゃねーか。


 そういや、尊敬する親父が「いいか、竜馬。世話になった相手には例え敵だろうと、心こめて礼をしろ」ってよく言ってたな……そうだな、こういう時はなんか礼をしねーとな……ぉっ、そういやさっき、キャバ嬢から貰った飴があったはず……おーあったあった。

 親父に習って敵のこいつらに飴を差し出してやる。


「ほれ、礼だ。おめーらにはひー借りたからよ。しょぼいが今はこれしかねーからこれで我慢してやってくれや」

 

 子分林ごぶりんたちは匂いを嗅ぐとそのまま、ポイと渡した飴をほうり投げた。


「おい、てめーらっ! 人様から頂いたもん捨ててんじゃねーぞおらぁ!」


 人様から頂いたもんを粗末に扱う輩には、説教すんのが漢ってもんだろ親父!

 夜空を見上げれば、親父がうんと頷いていた。


 大きな声で叱ったせいで、子分林ごぶりんはビクッと肩を揺らしどこかへ行ってしまった。

 仕方なく、その場に捨てられた飴を拾い集め、ポッケへと直しこみ。火の側へと座りなおした。


 たくよー、大事にしろつーんだよ! まぁ、しょうがねーけどよ……わかりあえねー奴等なんかこの世にごまんといるしよ。

 そうして、滅多に使わない頭を使ったせいか、それとも酒を飲んでいたせいか火の暖かさを感じ。その日はその場で爆睡をかました。






「ふぁ~あ。よく寝たぜー」


 閉じた瞼に明かりを感じ、意識が覚醒した。その場でうーん、と両手両足を伸ばしつつ背伸びをすれば、寝ていた身体がようやく動きだす準備を整えた。


 むくっと起き上がり目を開け見れば、高く聳え立つそびえたつ黒く禍々しいた門あった。

 とりあえず、あそこに行って魔王城の在り処を聞くとするか。

 そう考え、早速行動に移す。

 

 門の前には二人の人? に似た何かが立っていた。


「あ~。ちょっとすいやせん。道を聞きたいんですがね?」


 苦手だが、笑顔を向けそう言った途端、門の端に立っていた二人の人っぽい何かは門を開けた。

 そして、丁寧なお辞儀をすると「ナカヘ オハイリクダサイ」と片言で告げた。 

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