魔王城かよっ!~転移した、ヤクザの若頭 with 剣☆山~

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第1話 若頭、異世界へ赴く

「あぁ~。マジ超酔っちゃったよ……ひくっ……」


 気に入りの女がいるキャバクラで、たらふく飲んで舎弟の運転する車に乗り込み自宅へと帰った。

 日本古来からある、大木を使った大門を通り抜け車が玄関先で止まれば、大勢の舎弟たちが玄関先へと並び俺の帰りを出迎えた。


 舎弟の一人がドアを開け、頭を下げる。


若頭わかがし、おけーりなさいやし!」


 奴の声に合わせ、出てきた舎弟たちが声を合わせ「おけーりなさいやし!」と言う。

 片手をあげて「おう、おめーら。遅くまでご苦労だったなっ」そう言ってねぎらいの言葉をかけてやれば頭をあげ、気持ち悪い顔を歪ませ嬉しそうに笑いやがる。


 玄関で靴を脱いで、長い廊下を歩き、最奥にいる親父へと帰宅の挨拶に向かう。

 松と竜の書かれた襖を前に。正座をして俺の尊敬する親父へと声を出した。


「親父、ただいま戻りました」


「おぅ、竜馬たつま入れ」


「へい」


 親父の野太い貫禄のある声が、俺の名を呼び中へ入るよう促した。

 襖の前で、頭を15度ほどさげ返事を返し、両手で襖を開けて立ちあがり、溝を踏まないよう足を開いて中へと入った。


 室内は落ち着いた床の間のある和室で、登り龍の掛け軸と高そうな壷が置かれ、親父はその前に置いた一本の天然木から切り出した落ち着いた光沢のあるローテーブル越しに座って茶を啜っていた。


「おぅ、竜馬おけーり。どうだった?」


「へい。今日も問題ありやせんでした。葛能瀬会長も上機嫌で承諾してくださいました」


「そうか……じゃあ、今度の祭りもこの城ヶ島が仕切りでいいんだな」


「へい。2日後に書類を持ってくると仰ってましたんで、親父も予定を空けておいてくだせー」


「わかった、ご苦労だったな。今日はゆっくり休みな」


「へい。失礼しやす」


 親父へ毎年開催される祭りへの出店が決まったことを報告し終え、15度ほど頭を下げて襖を閉め部屋を後にする。

 ぼーっと酔いの回った頭で、少し飲みすぎた……と反省し、酔いを醒ますため池の側でしゃがみ込み目を閉じれば、ユラユラ揺れる感覚に程よく睡魔が絡み合い……目を開けた時には、眼前に水と鯉が迫っていた――。







 服の中でモゾモゾ動く物体に気付き慌てて、裾を引っ張り出した。

 裾からぼとりと落ちたそれは、紛れもなく親父が大事にしていた錦鯉の花子だ……。

 ピチピチ飛びはね、口をパクパク動かし水を求める花子を、慌てて抱きかかえ池を探すため周囲を見た。


「……なんでぇ……ここは」


 見える全てが、どぎついピンク色をした物であふれ返っていた。


Pi--------自主規制音みてぇじゃねーか」


 中央にあるベットから「うぅ~んんっ」と悩ましい女の声が聞こえ、衣擦れの音がなり、淡く香るフローラルの匂いが鼻腔を擽った。

 突如、襲い来る性欲にたまらず。前かがみになると、親父の大切な子供である錦鯉である花子の存在を忘れ、大切な部分を覆い隠し太ももを八の字に寄せた。


「あらぁ~。お客様~?」


 そう言うと、彼女は起き上がりこちらを振り向くと、立ち上がり一歩一歩近づいて来る。

 彼女の見た目に俺は一目惚れした……。


 薄いピンクの髪を腰まで垂らし、華奢な腰の割に肉付きの良い胸をした身体は白く健康的で、その肌を惜しげもなく晒した服は、女を知らなかった俺を刺激する。

 そして、小さな顔には大きくパッチリとした目、長い睫にリンゴのように赤い口紅をさした、かぶりつきたくなるような唇がまた魅力的だ。

 

「おめぇ。男いんのか?」


 無意識に声を出し、彼女を軟派していた。

 俺の言葉に、細く白魚の様な指を唇にあてた彼女は「うふふっ」と笑い声を上げると、首を横に振って見せた。


「なら、俺の――「斉藤竜馬さいとう たつまさん。現在27歳、独身……女性の経験は――。では、今回あなたがここへいらした理由をお話しをいたしましょう」」


 俺の言葉を完全に塞いだ形で、その女は突然俺の名前や年齢そして……あれのことまで言い当てやがった。


「てめー! どこの組のもんでぇ!」


 瞬時に警戒し、敵対組織ならマズイと思い、背広の裏に仕込んだドスを取り出そうと、背広の内を漁るも背広は既に脱いでいたことを思い出しす――。

 俺はなんてバカなんだ……。


「さぁ、こちらへ」


 仕方なく女の後を付いていけば、突然扉が現れ女に促されるままその扉を潜る。

 そこには、地球儀に良く似た丸い球体をしたものが置かれていた。


「なんで~。ここは、おらぁ勉強なんぞできねぇからヤクザやってんだぞ?」


「ふふっ。お勉強をしていただく必要はありませんよ。斉藤竜馬さん」


 くそっ、笑った顔もマブ美人じゃねーか!


「それでは、ご説明をさせていただきますね」


「その前に、おめーさんの名前を教えちゃくれねーか?」


「ふふっ。私はこのニールガルデルの神である女神、メルディスと申します」


「メルディスか……マブなおめーにはそれが良く似合ってるぜ!」


「あら、ありがとうございます。ではご説明を」そう言って、メルディスは可愛い顔を困り顔にすると説明をはじめた。


 現在このニールガルデルには、魔王がいるのだが他世界から魔神をこの世界へ呼び寄せようとしているらしく、神が世界へ干渉することはできずメルディスでは手出しが出来ないため困っていると言う。


 そうか……惚れた女のために人肌脱ぐべきじゃねーか? それが漢ってもんだろ親父!

 脳内で親父を思い出せば、大きく頷いていた。


「それで……斉藤竜馬さんに――「みなまで言わなくでいい、俺がメルディスの願いを叶えてやる!」」


「本当によろしいのですか?」


「あぁ、漢に二言はねぇ! それとだな……俺のことは竜馬って呼べ」


「はい。竜馬さん」可愛らしい声で俺の名を呼ぶと嬉しそうにマブい顔を綻ばせ、白魚の様な指を胸の前で組み合わせ祈りを捧げた。


「それでは、竜馬さん……あなたに魔王討伐のために必要な武器を差し上げますわ。どんな物をお望みですか?」


 そうだな……ドスが使い慣れてるからなぁドスにするかっ!


「ドスで頼むぜ」


「ドス……?」


 首を傾げる姿もまたいい女だ……あぁ、早く俺のものにしてやりてぇなぁ~。じゃねぇ、ドスじゃつたわらねーか。なんつーんだ? 剣? 刀? 嫌違うな……


「小さい剣だ! 多ければ多いほどいい!」


「判りました、小さな剣が沢山ですね」


 そう言うと、メルディスが手を組み祈りを始めた。組んだ手の中が徐々に発光しはじめその光はやがて彼女の手から俺の心臓へと飛んでくると身体へ吸い込まれていった。


「無事にお渡しできたと思いますわ」


「そうか。じゃぁちょっと魔王の奴ぶっ倒してくるからよ。終わったら……俺の話聞いてくれや」


 出会って直に女になれなんて流石に先走りすぎだな。ここはすげーいい男だってとこをアピールしてから俺の女になれつーのがいい漢ってもんだろ? 親父!

 目を閉じて親父を思い浮かべれば、親父も大きく頷いていた。


「では、竜馬さん……よろしくお願いしますね」


「おうよ。行ってくるぜ!」


「お気をつけて――」


 視界が白く染まり、メルディスの姿が薄れる中、彼女の俺を心配する声だけが聞こえた――。

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