第9話『秋風とメガネ』
私が勤めていた地方気象台の分室では、秋の到来をある道具で観測していた。
『
そのステンドグラスめいたレンズを通して見ると、風にほんのり色が付いて見えた。
「秋茜は暑さに弱い」
先輩がそう教えてくれた。
「夏を高山で過ごして、秋になると里に降りる。その眼鏡は彼らの『時季を見極める力』を利用してる」
「凄い! 淡い絵の具を流すみたいだ。綺麗ですね」
「時代遅れなやり方だけどな。観測は必ず日陰から。一点物だ。大切に扱えよ」
私は眼鏡越しの世界の虜になった。
風の色が移り変わる瞬間の、その繊細な
ある年、私は観測に没頭するあまり禁を破ってしまった。
蜻蛉の眼鏡のままうっかり日向に出てレンズを焦がしたのだ。
始末書で済んだが、当時はひどく自分を責めた。
三十年が経った今も、私は懐かしく思い出す。
あの優しくて爽やかな秋風の色を。
目の前にあるのにもう見て取れない、移ろう季節の美しさを。
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