第8話『チャイムの音がした』

 同窓会の企画の一環だった。

 数人で地元の小学校を訪ねた。

 古びた校舎。飴色の廊下。教室。机も椅子も昔と変らなかった。

 窓際に立つと夕暮れのグラウンドが見渡せた。

 僕の隣に、当時好きだった朋子ちゃんがやってきた。

「啓太君、いつも外走ってたね」

「走らされてたんだよ。先生に」

「知ってる。悪ふざけばっかりしてたもんね」

 並んで外を眺めた。

 穏やかな一時。

 恥ずかしさが先に立って、ろくに口もきけなかったあの頃が嘘のようだ。

 本当に、嘘のようだ。

 今はそれぞれ伴侶も子供もある二人だなんて。


 そろそろ出ようと誰かが言った。

 来てよかった、と別の誰かが呟いた。

「私たちも行こう」

 朋子ちゃんが窓辺に背を向ける。

 瞬間、僕は彼女の手を取っていた。

 見つめ合った。

 互いに何か言いかけたそのとき、チャイムの音が鳴り響いた。

 慌てて手を離した。

「ごめん」

 謝る僕に、彼女は肩を竦めた。

「また悪ふざけ」

 窓の向こうを指差して笑った。

「グラウンド十周」

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