第4話『スイッチ』

 珍しく凛から着信だ。

 茜は発泡酒片手にスマホをタップした。

「何? 例のロマンチスト彼氏に誕生日を祝ってもらうんじゃなかった?」

『彼、今トイレ』

「経過報告ね。聞こうじゃない」

 茜は部屋の窓を開けた。

「そこ、どこ?」

『前に話したレストラン』

「ああ展望台の。夜景が綺麗な」

『さっき彼が赤いスイッチを出したの』

「スイッチ?」

『言われるまま押したら、市街地の灯りが端の方から消え始めて』

「ええ?」

『残った光で街にRin,Happy birthday.の文字が』

「うっわ」

 茜は思わず笑ってしまった。

「サプライズ! よくやるわ。嬉しかった?」

『まあ少し』

「かなり、でしょ? じゃなきゃアンタが電話なんて」

『帰ってきた。切るね』

 はいはい、と通話を終えた。

 顔も知らないロマンチストを褒めてやりたかった。

 彼は押してのけたのだ。ドライで不器用な凛の心のスイッチを。

「親友をよろしくね」

 そっと夜空に呟いて、茜は発泡酒を飲み干した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る