第5話『郵便ポスト』

1年ぶりの帰国ともなると郵便受けはいっぱいだった。

ある葉書に『長年のご愛顧感謝申し上げます』とあった。

撤去の通知。最寄りのポストだ。


思わず目を疑った。『葵さんへ』と手書きで私宛の単文が添えてあった。

『暖かみのある葵さんの絵が昔から大好きでした。音無町2丁目バス停前・郵便差出箱12号』

私は部屋を飛び出した。


今は亡き祖母との絵葉書のやり取りが絵の道に進むきっかけだった。

作品が売れない辛さに、バイトで金を貯めては修行と称して国を飛び出した。

私は忘れかけていた。小さい頃に感じた描くことの喜びを。


バス停前にポストはなかった。無理もない。葉書にある撤去の日は半年も前だ。

書き添えは局員さんの悪戯? それとも本当に郵便ポストが?

どちらでもよかった。

私は呟いた。「ありがとう、見ていてくれて」


帰り道、ふつふつと創作意欲が湧いてきた。

そのうち誰かに暑中見舞いでも贈るとしよう。

ありし日のポストの姿を大きく描いて。

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