第3話『それ、なあに?』


 本を読んでいた彼女に幼い娘が抱きついてきた。

「ねえお母さん、金ピカのそれ、なあに?」

「これ? これは物販で買った……」

 ただの栞、とはとても言えなかった。特別な、記念の品だ。

 そっと目を閉じて、彼女はあの頃を懐かしく思い出す。


 楽しかった公録。リスナー仲間とのオフ会。大好きになった図書館通い。

 夫と巡り会ったのも図書館だった。デートでは必ず街の本屋に立ち寄った。

 小説。童話。詩。仲間。伴侶。

 たくさんもらったかけがえのない出会い。

 開かれたいくつもの新しい扉。

 ――少しだけ怖くなった。どれか1つでも欠けていたら、この子とこうして過ごす幸せな今はなかったかもしれない。


「ねえねえお母さん、それなあにってば」

「ごめんごめん。これはね、幸せの鍵」

「幸せの鍵?」

「そうよ。お母さん、昔からずっと聞いてるラジオ番組があってね……」

可愛い娘に優しく語りかけながら、読みかけの本に、彼女は大切な金の栞を挟んだ。

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