第2話『カメラの向こう』

 ヘッドセットを付けるとそこはもう天空の世界。

 私は緑の山々を眼下に空を駆け巡る。

 バイオロギングを応用したライブ配信サービスだ。

 野鳥に付けられた、およそ一年で微生物分解されるカメラが、翼を持たなければまず味わえない感動を与えてくれる。

 長期入院の日々のつれづれを鳥たちにどれだけ慰められたことか。

 この青い羽の子は一番のお気に入りで、いつも一緒に亜高山帯の針葉樹林を飛び回っている。


 けれど今日は少々勝手が違った。

 山を越え谷を越え、鳥は市街地へ下りてきた。

 どこの街だろう。何だか懐かしい気がする、と思ったのも束の間、見覚えのある白い建物が近付いてきた。

 庭木の梢が揺れた。三階の窓。ベッドに腰掛けてあんぐりと口を開ける病院服の男が見えた。

 まさかこんな奇跡が起こるなんて……。私はヘッドセットを外した。

「お見舞いに来てくれたのかい?」

 ルリビタキ。

 私の青い鳥は、短い尾でリズムを取りながら小さく首を傾げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る