『月の文学館』投稿作品集11~20

夕辺歩

第1話『庭の秘密』

 縁からは二月の和風庭園が一望できた。

 大病を患って以来、なぜか祖父は庭造りに夢中だったという。

 それがまさかここまで本格的なものだなんて。

 存命中にこの感動を伝えられたら良かったのに。

 築山。竹垣。石灯籠。鯉が泳ぐ池に枝を差しかけた大きな桜の木――。

「満開の景色を見てみたいなあ」

「好きにおし」

「庭の管理、本当に僕に任せていいの?」

「ああ。こんなもんの何が良いんだか私にはさっぱり」

 いつも和服で過ごすという祖母とも思えない言葉だった。まあいいか。

「造園業者さんの連絡先、教えてよ」

「制作会社のことかい? 要らないだろう、現代っ子なんだから」

 おもむろに、祖母がラップトップを持ち出した。

 屋敷の庭の3D画像が映っている。

「え、まさか」

 いや、むしろ自然なことかもしれない。

 晩年の祖父は寝たきりだったと聞いている。

 僕がテクスチャを差し替えると、座敷から望む冬枯れの庭は一転、静かな水面に満開の桜が明るい影を落とした。

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