第五話 現状分析(方向性の再検討)

 前回、「閲覧者数を稼ぐためには、目立つところに作品が置かれていなければならない」という点まで考察を進めてみた。

 しかし、よく考えてみればこれは「当然の話」である。当たり前のことを、具体的な数字で検証してみたに過ぎない。

 それに「目立つところに作品を置く」こと自体、そもそもハードルが高い。要するに「作品の人気が高ければ、目立つところに置かれる」のだが、ではその『人気』を集めるために具体的にどうしたらよいのか、という点が問題となる。

 ざっと考えてみると、現時点で『人気を集める』方法は三つある。(他にもあるかもしれないが、とりあえずということで)

 一つ目は、「圧倒的な筆力で読者を唸らせる」ことだ。

 その辺から「そんなこと出来たら苦労しないよ」という声が聞こえそうだが、誰もこの点に異論はなかろう。

 二つ目は「投稿の初期段階で、組織票などの手段を有効活用する」ことである。

 この是非については、過去に拙作『ランキングを擁護する』で論じているから、そちらを参照頂きたい。

 そして三番目が、「人気の高いトレンディな分野の作品を書く」ことである。

 一つ目と似ているように思われるかもしれないが、そうではない。筆力があっても客のいない分野の作品で、読者を唸らせるのは大変だ。第一、まずは読ませるのが難しい。読者はいきなり本文を読んだりしないものだから、タイトルやあらすじで気を引かないと、どうしようもない。

 その点、人気のある分野であれば最初のつかみは(他の分野と比べれば)容易である。『異世界転生物』であればなおさらだ。分野としての『異世界転生物』に対する、一般読者の支持はいまだ根強い。

 ただ、その一方で書き手を中心とした『異世界テンプレなんて』という声も小さくはない。しかし、資本主義の見地からすれば売れるものが絶対的正義である。

 当然のことながら『テンプレなんて』という書き手の声は”ひがみ”としか思われないし、『まずは書いてみて、人気が出てから言え』という返し技をくらうこともある。


 ここで、話は唐突に横道に逸れる。


 私自身は『異世界転生物』をそれほど毛嫌いしていないし、自分でも書いているが、昔、ちょっと納得できない体験をしたことがある。

 とある有名小説投稿サイト(今あなたが想像した通りの、例のあれ)が開催した小説コンテストで、最後に運営から以下のようなコメントが出された。


「例えば『異世界系』等では悪く言えばありふれた舞台設定の中、いかに新しさを出そうと作者の方が日々努力しているためか、設定や展開に興味を惹かれるものが多く、読者を意識していると感じました」

「流行しているジャンルの中で、読者を引き付ける作品は共通認識を盛り込みながらも、自分の色を少しずつでも出している作品が書籍化というハードルの中では、意識していない作品に比べて完成度で一歩前に立つ作品が多かった印象はあります」


 ちょうどそのコンテストに『非異世界転生物』で参加していた私は、本気で「アホか」と思った。

 素直に読むと「書き手の多いジャンルは、作者が読者を意識して努力しているから、他の分野よりも特色を出して読者を引き付けようという意欲が感じられる作品が多い」ということになる。

 ロジックとしては理解可能だが、本気でそう考えているのであれば実に失礼な話だ。そのため、以下のような反論の文章を書いた。


 *

 

『異世界系』というジャンルに活気があるのは、それが若いジャンルであるからです。

 そして、その世界の現状は、ヒューゴー・ガーンズバックが一九二六年に『アメージング・ストーリーズ』を創刊して以降の、アメリカSFが陥った『パルプ・フィクションの時代』に酷似しています。

 あの時代、アメリカSF界は「半裸の金髪女性がタコ型宇宙人に襲われるところを、主人公が光線銃で助ける」テンプレートの小説を、手を変え、品を変えて、大量生産しました。

 市場が「新しい視点、新しい刺激」を必要としておりましたから、新たな書き手が活躍する余地も広く残されておりました。また、既存作家の層が薄く、出版された後、市場の側で選別がされにくかったという事情もあるでしょう。

 いずれにしましても、書き手にとって非常に魅力的な世界です。


 一方、非『異世界系』のタイトルを出版する場合、市場には競争相手が多数ひしめいております。

 例えば『推理』というジャンルを考えてみた場合に、多数の書き手が既に市場にひしめいております。この中で、一定以上の販売実績を上げるためには、かなりの品質が求められるでしょう。

 出版には慎重にならざるを得ません。一定の水準に達しているだけでは生き残れるはずもありませんので。


 今回、私の作品が二次選考に残らなかったのは、この点で非常に物足りないからだと思いますし、それは正当な評価と思います。

 しかしながら、二次選考を通過した作品が殆ど『異世界系』となった事情を説明するのに、「作者が読者を意識して努力しているから」というのは、あまりにも非『異世界系』の書き手を馬鹿にした言い方ではありませんでしょうか?

 これでは、非『異世界系』の書き手が「全然意識もしていないし、努力もしていない」ように聞こえます。私は非『異世界系』の書き手が、全員そうだったとは思えません。


 正しくは、

「『異世界系』は若いジャンルなので、新たな書き手の活躍できる範囲が広い」

「非『異世界系』は競争が激しいので、出版に至るハードルが高い」

 と、ただそれだけの『大人の事情』ではないかと推察しております。

 むしろ、そう言われたほうが納得もできるのですが、いかがなものでしょう?


 *


 残念ながら、この意見は誰からも興味を持たれなかったが、私自身はいまでも同じ考えである。

 また、分野に貴賎はなく、単にトレンドがあるだけである。書けるならば書けばよいし、それで人気を獲得できるのであればそれにこしたことはない。

 ただ、問題と思うのは「『異世界転生物』というトレンドに依存し、異世界転生物しか書けなくなる」ことだ。

 おそらくこの分野は一時期隆盛を誇った後、消費されつくして後は何もない荒地だけが残る。その時、別なトレンドに乗れるだけの才覚が書き手にあるかどうかが問われるはずだ。


 というわけで、個人的には『何でも屋』路線を継続することとする。


( 第六話に続く )

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る