第34話

クリスマスパーティの日、朱雀と悟は基地で飾り付けをしていた。

朱雀が持ってきたタッパには美味しそうなご馳走がギッシリ。


「流石柏木。凄いね。」


「でしょう。僕、お料理の才能あるのかも。」


「このケーキはどうしたの?」


ケーキは別の箱に入っていて、中身は見えない。


「本見て作ったんだよ。」


「見ていい?」


「それは後のお楽しみ。でも買ってきたスポンジ使ってるから、ケーキの方はソコソコ位のレベルかな?」


「へーえ。でも偉いなあ。やる時はやるんだねえ、柏木。」


「そうよ。僕だって男ですから。」


絶句する悟。

どうも、どの部分が男という自覚があるのか、未だによく分からない。


龍介達は受験生だから早めに来なくていいと言ってあったのだが、時間前に来た。


料理を例によって適当に盛り付けながら、龍介が言った。


「おお、凄えな、朱雀。美味そう。」


「ん。ありがとって龍、ちゃんと盛り付け…。」


言いかけた所で朱雀は笑ってしまった。

拓也が龍介が盛った側から綺麗に直していっている。


「ありがと。拓也君。」


「いえいえ。」


「あ、そうだ、佐々木。拓也。」


「あ、初めまして。佐々木悟です。」


「あ、拓也です。いつも龍さんにお世話されたり、兄に苦労かけてる佐々木さんですね。」


「うっ…。」


事実なので、返答の仕様が無い。

拓也に悪意は無く、天然で言っているようで、ニコニコしている。

優子に似て、なかなかの美少年の拓也は、実はズバリ言うわよな性格である。


やっと準備が出来たので、朱雀の指示通り座り、進行も朱雀の指示で進む。


「ではでは、プレゼント交換から。はい。龍以外の人でジングルベルを歌って、止まった所で止めます。」


音痴の龍介以外で歌い、止まると、サンリオ袋は拓也の手にある。

亀一と龍介は目配せし、亀一が訳の分からない、


「チャンチャン!」


という音楽を咄嗟に付け、急いで回させ、サンリオ袋は無事朱雀の手元に行った。


「これ、僕用なの?だったら初めからそう言ってくれればいいのに。」


ー他の誰が欲しがるっつーんだよ!察してくれよ!


龍介と亀一の心の叫びは朱雀には届かず、議事進行は進む。


「では1人づつ開けていきましょう。じゃ、拓也君からね。」


「はい。」


拓也の箱の中にはミニカーとCDーROMが入っていた。


「ん。俺だ。拓也、貸してみ。」


寅彦はCDーROMを受け取ると、基地用のパソコンに入れた。


「こうやってこれをインストールするだろ?そうすると、マウスで動きます。」


「わあ!凄い!有難うございます!」


「はいはい。」


なかなかの男の子心をくすぐるプレゼントに、周りも感嘆の声をあげている。


「次僕ね。」


一際シーンとなる龍介。


「誰からなの?」


暫しの沈黙の後、龍介が蚊の泣く様な声で言った。


「お…俺だ…。」


「龍なの?わあ、有難う。何かなー。」


朱雀以外が龍介を指差して、大爆笑している。

亀一は自分を差し置いて思い出しているらしく、一際ゲラゲラ笑っている。


「加納がサンリオに!?似合わないのー!」


「凄えドタバタ喜劇だったぜ?!」


「だろうね!龍さんがあそこに居るの想像するだけで笑えるよ!」


「だな!見たかったぜ!」


「うるへえ!朱雀、早く開けろ!」


「はーい。あ、可愛いー!こういうハサミ欲しかったんだあ!龍、ありがとお!」


「はああ…。良かった…。」


ドッと疲れた様子の龍介はほっとき、次に進む。


「じゃあ次は佐々木君が開けて下さい。」


「はい。」


箱の中にはぽつんとチョロQが一つ。


「これはただのチョロQでは無い。まあ普通にやってみたまえ。」


プレゼント主は亀一らしい。

亀一の言う通り、普通に後ろに引っ張って離すと、そのチョロQは目にも止まらぬ速さで走り出し、テーブルの足に当たっても止まりもせず、ひっくり返る事も無く疾走し、龍介の長い足にチョロQとは思えないガツンという音を立てて漸く止まった。

かなり痛かったらしく、龍介は膝を抱えて苦しんでいる。


「きいっちゃあん!なんだこの危険なチョロQはああ!」


「だから気をつけて遊ぶ様に。」


「は、はい。ありがとう…。」


「見ろ、これえ!凄え痣!」


まくりあげたジーンズから見える膝は、真っ赤から真っ青になっていっている。


「おわあ…。気をつけますう…。」


テーブルの足を見たら、チョロQが当たった所はえぐれていた。


「ー長岡、君は何をしたかったんだ…。」


亀一が答える前に、拓也が天使の微笑みで言う。


「お兄ちゃんは兵器を作りたかったんだと思います。」


「ん。よくわかっておるな。弟よ。」


ーいったいどういう兄弟なんだああ~!


悟の衝撃も置いておかれ、次へ。


「じゃ、寅どうぞ。」


「はいよ。」


箱を開けると、CD-ROMが。


「あ、僕です。ゲーム作ってみました。」


悟が手を挙げた。


「やってみていい?」


「うん。どうぞ。」


早速パソコンに入れると、画面に現れたのは、目の大きな二等身のお侍。

タイトルはドラゴン侍。

勿論、全員が龍介を見て、大爆笑が巻き起こる。


「凄えな!これ龍だろ!?」


寅彦が聞くと、悟はニンマリ笑って頷いた。


「なんで俺だあ!?てめえ喧嘩売ってんのかあ!」


納得行かないのは龍介だけで、他のメンバーは全員納得している。

そのお侍は刀を差して歩いているくせに、何故か攻撃は口から火を噴く。

ちょこまか歩いては、障害物の変なキノコや食虫植物の様な物を、火を噴いて攻撃。

もう爆笑の渦。


「龍さんを体現してる。凄い才能ですね、佐々木さん。」


「そう!?そう!?」


拓也の肩を龍介がガシッと掴む。


「拓也…。なんか違うんじゃねえか。なんだ俺を体現て。」


「大体こんなもんですよ?龍さん。」


真っ白になる龍介を見て、更に笑いが止まらなくなる仲間達。


「ありがと、佐々木。楽しませて貰うぜ。」


「うん。」


「じゃあ、次はきいっちゃんが開けて下さい。」


「はい。」


開けて固まる亀一。


見事な薔薇の刺繍のクッションカバーが入っている。

薔薇の刺繍の周りはレースとフリルで縁取られ、ピンクピンクピンクでピンクの薔薇。


「す、朱雀か…。」


「はーい!僕でーす!刺繍もカバー縫ったのも、全部僕なんだから、大事に使ってね!」


「う、うん…。有難う…。」


朱雀は男の子の趣味には合わせてくれなかったらしい。

真っ白になったまま箱に戻す亀一を、皆、忍び笑いで面白そうに見つめる。


「じゃ次は龍が開けて下さい。」


「はい。」


開けると、そこには双六が入っていた。


漫画絵の上手い拓也の可愛い絵で描かれているのは…。


「また俺え!?」


その名も龍介の大冒険。

今までの数々の武勇伝で双六は進む。

時々、爺ちゃんに怒られて一回休みとかがあり、その際の龍介は泣きべそをかいて布団に潜っていてとても可愛い。

爺ちゃんに怒られた事は無いが、怒られたら、こうなるだろうなという気はする。


「有難う。よく描いたなあ。」


「後でやりませんか?」


「うん。」


「じゃ、これで終わりだね。」


朱雀が言うと、龍介がニヤリと笑った。


「いや、ちょっと待て。」


そしておもむろに箱を出す。

その瞬間、悟以外の全員が真っ青になった。


「な、何?どうしたの?みんな…。」


悟が聞くが、誰も答えない。


「龍…、なんかいつもよりデカくねえか…。」


言った亀一を不吉な笑顔で見る。


「全員分だからな。さあ、開けたまえ!」


亀一は溜息を吐くと、冷静に指示を出した。


「料理とケーキ隠しとけ。俺は電球守る。寅はパソコン守れ。朱雀と拓也は窓ガラスな。佐々木は…。」


しかし、悟はやはり最後まで聞かない。


「じゃ、僕開けるよ。」


「待て!だから話を聞…。」


悟が箱の蓋に手をかけた瞬間、ガチャリと音がした。


ーガチャ?なんだろう?


しかし結局開けてしまう悟。

開けて初めて後悔するが、もう遅い。

箱からは無数のスーパーボールが飛び出し、そこかしこに当たっては跳ね返り、更なる被害を出し続ける。


「何これ!痛い痛い!」


「だから聞けって言ったんだよ!お前も早く窓ガラス守れ!」


全員何かを守っているから、自分の身は守れない。

痛い痛いと阿鼻叫喚の地獄絵図となった基地の中、1人楽しそうに高笑いをしながら、亀一の分厚い本で、飛んでくるスーパーボールをテニスの要領で跳ね返し、更に事態を悪化させている男、龍介。


やっとスーパーボールのバウンドが落ち着き、席に着く。


「全くもう…。朱雀のが普通に終わったから無えと思ったのに…。」


呆れ顔の亀一が言うが、龍介だけは楽しそうに返す。


「これやんなきゃ物足りねえだろ?」


呆然としている悟以外の全員が間髪を容れず答える。


「足りなくない!!!」


「んな事言って。なきゃ無いで寂しいくせに。んじゃ佐々木、箱の中身見ろ。」


ーああ…。中身があったのか…。


中には例の時間がかかって難しいボードゲームのウォーゲームが入っていた。

艦隊司令官になるものらしい。


「父さんがまだあったからってくれた。今度ここでやろうぜ。」


「あ、ありがとお…。」


なんだか納得行かないながらも一応、全員で礼を言う。


朱雀の美味しい手料理と頑張ったケーキも食べ、拓也の作ってくれた爆笑双六もやり、クリスマスパーティを楽しく終えて外に出ると、冬空にまたこの間の様な光が見えた。


やはり右へ行ったり左に行ったりして、急降下して、丹沢の方に消えた。


「またかな…。なんで丹沢に落ちんのかな…。」


龍介が呟くと、小声で拓也が言った。


「ジョーンズさんの話だと、丹沢付近に来たら引っ張られたそうですよ。」


亀一が付け加える。


「親父が言うには、磁力が強い所があるらしい。」


なんだなんだと朱雀と騒いでいた悟が、3人の間に入って来た。


「何?なんの話?」


「いや、UFOかなって言ってただけ。」


亀一がごまかすと目を輝かせた。


「見に行ってみる!?」


それはまずいと言わんばかりに、龍介達UFO捜索隊第1部隊の3人で怒鳴ってしまう。


「行かねえよ!」


「加納は兎も角、長岡までなんなのよ。珍しい。」


龍介と寅彦に突っつかれ、亀一がブツブツと悟の説得を試みる。


「あー、佐々木。丹沢は舐めちゃいかん…。冬はなかなか厳しい。あんなどこに堕ちたか分からん物を探してる間に、お前の様な行軍に慣れてねえ奴は凍死してしまう…。」


「そうかなあ…。」


訝しげな悟に、拓也が天使の笑みで、やけにゆっくりとした口調で言った。


「佐々木さん。世の中には知っちゃいけない事っていうのがあるんです。知ったら危険になったり、パニックになったりして、社会が成り立たない事があるんですよ…。分かりますう?」


可愛い顔で笑ってはいるが、目がものすごく怖い。

龍介が怒った時とはまた違う意味で恐ろしい。


「え…あ…、は…はい…。」


「あんまり興味本意で首突っ込むと、龍さんでさえ助けられないような事態になるかもしれませんよ…?加納先生には嫌われていらっしゃる様ですしね…。」


悟同様、龍介達も拓也のど迫力に真っ青になっていた。

特に兄の亀一の衝撃は凄まじい様で、口までポカンと開いてしまっている。


「龍…。い、一体うちの弟は何を知ってるんだ…。」


「さ…さあ…。」


悟と下川を助けに行った時、竜朗の組織に捕まって手加減して貰えなかったら、一生監視されると龍太郎が言っていた。

拓也が言っているのは、多分その事だ。

亀一は知らないその事を、拓也は知っているらしい。


「あ、あの…。加納のお爺ちゃんに嫌われてるとどんな災厄が…。」


「加納先生はあの通り剣道の達人です。警察関係にも教えに行かれてる関係で、この辺の警察関係者全員、先生には頭が上がらない状態らしいですから、罪状なんかどうにでもなるんじゃないですか。」


「ぼっ、僕捕まっちゃうって事!?」


「まあそういう事もあるかもしれませんて話です。あまり余計な事ばかりして、龍さん達を危険な目に遭わせたりすると…。」


そして、怖い目のままゆっくりと微笑んだ。


「わ、分かりました!冬の丹沢に探検に行ったりしません!」


「大変結構です。」


朱雀とも、龍介とも違う意味で、拓也もなかなかに怖い男らしい。























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