第33話

宇宙人との遭遇の後、加奈も完治したというので、寅彦は家に帰り、龍介は久しぶりに竜朗と風呂に入っていた。


「どうだった。宇宙人は。」


「いや、意外と普通の人間でびっくり。あのリトルグレイとかって嘘なんだな。」


「そうみてえだな。」


「でも、ジョーンズさんの住んでる星の規制というか、決まりは怖くて気持ち悪かったな…。いくら平和でも嫌だな、監視されまくって生きてくなんて…。」


「そうだなあ…。管理しやすいゴタゴタの内にやっちまったんだろうな。そこまでやりゃあ、平和だろうし、問題も起きねえかもしれねえが、ちょっと気持ち悪いねえ。」


「うん…。地球もそんな風になっちゃうのかな。地球が駄目になって、宇宙に作った星に移る時、自前で星作れなかった国は、奪いに来るだろ?そうなったら戦争が起きて、一杯人が死んで、もう嫌だからってそんな風に…。」


「どうかな、それは。ジョーンズが見せてくれたジョーンズの星の歴史と地球の状態は随分違う。国の数もジョーンズの星は半数以下だったらしい。それに元々かなりの管理社会ではあった様だしよ。条件が違えば、同じ事が起きても結果は違う。そう不安になんなくても大丈夫だよ。」


竜朗に言われると、なんだか本当にそうだと思えてしまえるから不思議だ。

少し笑って頷くと、竜朗は龍介を窺う様にして全く別の事を聞いた。


「真行寺さんに会ったろ?どうだった?」


「どうって…。凄えいい身体してた。」


竜朗はずっこけた。


「いや、だって、一緒に温泉入ってびっくりしたんだって。年聞いたら、69だって言うのに、凄え引き締まったいい身体してんだもん。きいっちゃん達と触っちゃったよ。」


「そ、そうかい…。」


「爺ちゃん並みだよ。本当びっくり。」


「ほ、他は…。」


「あんまり長く話せなかったけど、いい人だなあって思った。優しいし。かっこいいしね。」


「今度会いに行ってみるかい?」


「え?なんで?」


「中学入ったらさ、手伝ったらどうだい。真行寺さんの仕事。」


「Xファイル!?本当!?いいの!?」


「いいよ。なんか最近増えて来てんだってさ。一人じゃ大変そうだからよ。」


「うん。やる。つーか爺ちゃん。」


「なんだい。」


「どうしてお年寄り一人でやらせてんだよ。アメリカドラマのXファイルだって、若者2人でやってたじゃん。」


「うーんと…。龍太郎から、俺が本物の図書館司書じゃねえってのは聞いたんだよな?」


「うん。」


「うん。そこの1番上が顧問つって俺ね。で、俺が顧問になる前の顧問が真行寺さんなんだ。」


「じゃあ、元上司なんだ。」


「そうなんだよ。で、不可思議事件調査は元顧問がやるって、昔から決まってんの。ああいう風に宇宙人だの宇宙船だの拾っちまう事もあるから、直ぐに龍太郎の所に回せるようにさ。」


「なるほどね。ーそうだ。真行寺さん、父さん嫌いって…。」


「図書館の人間はみんな龍太郎嫌いだよ。全く俺がどれほど肩身の狭え思いしてきたか…。」


我が子の事を話しているとは思えないほどの憎々しげな表情。

そもそも竜朗が肩身を狭くしているというのも、想像がつかないが。




龍介達が宇宙人と遭遇している頃、置いてけぼりを食った朱雀と悟は2人だけで基地に居た。


「佐々木君ちのクリスマスってどんな感じ?」


「んー…。そうだなあ…。お母さんがケーキ買って来て、ばあちゃんがスーパーの唐揚げ買って来るくらいかなあ。」


「よかった。うちもそんな感じ。ママがケーキとケンタッキー買ってきて終わり。」


「大体そんなもんじゃないの?」


「と思うよね?ところが、あの3人のママ達はみんなお料理上手な訳だよ。しずかちゃんはあの通り全てにおいてプロ級でケーキまで作っちゃうじゃない?きいっちゃんのママもお料理上手だし、加奈ちゃんはああ見えてフランス料理が大得意でさあ。あのしずかちゃんが習いに行く程なんだから。」


「へーえ…。あ、そう言えば遊びに行った時、焼きたてのなんていうの?分厚いクッキーみたいなのくれたよね。美味しかったな、あれ。」


「ああ、ガレットね。佐々木君、いっつも遠慮してみんなの家でご飯食べないから知らないかもしれないけど、みんなお店開けるレベルなんだよ。だからクリスマスもちゃんとやっててさあ。しずかちゃんなんて、あんな手早い人なのに、朝から準備する凝り様なんだよ。」


「なるほど。それは羨ましい。」


「そうそう。そんな訳で今迄切り出しにくかったんだけど。」


「何を?」


「みんなでクリスマスパーティ。」


「すればいいじゃない。」


「けどさあ、あの3人、大人ぶってるじゃない。それにおうちで立派なのやるから、龍なんか特にめんどくせっ!って言いそうだしさあ。言えなかったんだあ。」


「はあ…って僕に言えと言うの!?」


「いや、そうじゃないけど、佐々木君はやりたい?」


「折角ここもあるしねえ…。でも、一応あの人達受験生じゃない。」


「受験生って言ったって、凄い余裕ぶちかましてるじゃない。龍なんかこの間の模試、偏差値96だってよ?きいっちゃんなんか100だって!」


「そんな数値があるんだ…。」


「あるらしいよ…。」


「はあ…。」


「寅だって80だとかいう話だし、英と言っても余裕ですよ、あの人達は。だから佐々木君もやりたいなら誘おうよお。」


「まあいいけどお…。」


「なあに?あ、分かった。唐沢さん呼びたいの?」


「なんか男だけってのもさあ…。」


「でも逆に唐沢さんが来づらいんじゃないの?女の子1人なんて。」


「それは柏木がいるから大丈夫でしょ。」


一応憮然とする朱雀。


「何それ…。兎も角!唐沢さん呼ぶのは僕は反対!」


「へえ。なんで?」


「ここは僕達男の子だけの基地だもん!女の子は出入り禁止なの!」


「なんだか柏木らしからぬ事を言う…。」


「そういうもんなの!」


「ふーん。んじゃまあ、誘ってみようか。」




朱雀の予想通り、3人は乗らなかった。

めんどくせっ!とまでは言わないが、顔に書いてあるし、亀一には呆れた様な顔で言われた。


「そんで何するんだよ。いつもと変わんねえだろ?集まってお菓子食べて適当に話してって。」


確かにそれは言えていなくもない。


「なかなか手ごわいね。」


諦めムードで言う悟を八つ当たりの様にキッと睨みつける。


「佐々木君!やりたいんじゃなかったの!?」


「やってみたいけどさあ…。」


「なんでそんなにテンション上がらないのよ!」


「いや、うちのと変わらずしょぼそうだなと思って…。」


朱雀は眉毛を吊り上げ、やけに姿勢正しく悟をビシッと指差し、宣言する様に言った。


「分かったよ!お食事が問題なんだね!だったら僕が本気を出して腕を振るってあげるから、楽しみに首洗って待っとけえええ!」


全くもって意味不明だが、どうやら龍介を真似してみたらしい。

龍介達は苦笑しながら朱雀の肩を叩いた。


「分かった、分かった。楽しみに首洗って待ってるから、宜しくな。」


「ふんっ!吠え面かくなよ!?」


最後まで使い方を間違っている朱雀。


ー慣れない言葉は使わない方がいいよ、柏木…。




帰り道、亀一は龍介と2人きりになると、小声で話し始めた。


「寅達にも言いたかったけど、佐々木に言うとまずいかと思ってさ。」


「ああ、何?」


「ジョーンズさんがさ、親父から拓也の話聞いて、喘息ってジョーンズさんの星では治るんだって。そんで自分は医者じゃないから、喘息そのものを治す薬を作ったりは出来ねえけど、喘息ってのはアレルギーの酷いのだから、持ってきた中にアレルギーを治す薬はあるから飲んでみるかってくれたのを拓也に飲ませたら、発作起きてねえんだよ、アイツ。」


「良かったじゃん!」


我が事の様に喜んでくれる龍介を見て、亀一の顔もほころぶ。


「うん。なんか顔色も良くて、寒い空気吸い込んで、ちょっと走っても全く問題無し。」


「ああー、良かったなあ!じゃあ、一緒に連れ回せるな。」


「うん…。で、ちょっと相談…。」


「何?」


「基地に連れて来てやってもいいだろうか…。」


「いいに決まってんだろ!?連れて来いよ!何言ってんだ、水臭い。」


「うん。ありがと。」


「じゃあ、折角だから、クリスマスパーティとやらが今週末らしいから、そん時に連れて来たら?」


「では朱雀達にも断って…。」


龍介は嬉しそうに笑ったまま、亀一を見つめた。


「きいっちゃんにしちゃ、やけに気イ遣うね。どしたんだよ。」


「いや、なんというか、兄の方が緊張してしまう。」


「拓也は佐々木以外はみんな知ってるぜ?」


「でも、一緒に遊んだのは数回だし…。」


「大丈夫だよ。ところで、ジョーンズさんの星では病気は大体治せんのかな?美雨ちゃんの心臓病とかも…。」


「体質とかにも寄るらしいが、ほぼ治せるらしい。美雨ちゃんの方は、ジョーンズさんじゃ分からねえから調べてみるってさ。だから寿命は異様に長いってよ。寿命が延びる薬なんてのもあるらしいし。」


「ー爺ちゃんに飲ませてえな、それ…。」


ーどんだけ先生ラブなんだよ…。


そう思い、思わず言う。


「加納先生はほっといたって長生きしそうだけどな。」


「あん?」


龍介の片眉が若干上がってしまったのを見て、話を逸らす。


「いや、こっちの話。ああ、そういや、プレゼントを1人1つ持って来いっつってたな?アレ、グルグル回すって事?」


「じゃねえの?」


「ー朱雀用を誰かが用意しとかねえとマズイだろ…。」


「あ…。」


他のメンバーは大体同じ様な、要するに男の子向けで喜ぶが、朱雀だけは男の子向けでは喜ばない。


「どうする…。全然分かんねえよ…。あの雫の妖怪とか?」


「それこそ苺とか蜜柑に聞いた方がいいんじゃねえの?つーか、お前、雫の妖怪なんか買いに行けんの?」


「雫の妖怪は原宿にしか売ってねえとか言ってなかったか?原宿は行かねえな。」


「そいじゃ、化け猫でいいんじゃねえの?」


「なんだ、化け猫って。」


「蜜柑がいっつも抱いてるぬいぐるみの…。蜜柑と苺、しょっ中アレのTシャツとか耳付いてて化けるパーカーとか着てんじゃん。」


龍介は暫く考えた後、自信無さげに言った。


「アレは多分化け猫じゃなくて、きっちーちゃんという物だと思う。」


「それ蜜柑語だろ。まあ正式名称はどうでもいいが、お前アレ買ってきとけ。」


「なんで俺え!?」


「蜜柑達連れて行ってんだろ!?」


「あの店入んのは母さんだけだよ!」


「いいから買って来い!」


「嫌だ!きいっちゃん、あそこがどんな所だか知らねえからそんな事言えんだよ!あそこは目も開けて居られねえぐらい、派手できらびやかで、悉く男を排除した所なんだよ!」


「だろうから言ってんだよ!」


「分かってるくせに俺だけに地獄を味あわせようってのか!それでも友達かあ!」


「それとこれとは別だあ!」


「別じゃねえ!きいっちゃんも一緒に来い!」


「なんで!」


「駄目!俺1人なんてええ!!!」




という訳で、渋々パーティの前日の金曜日、学校から帰ってきてから2人連れ立って町田へ行く。

2人して、とても買い物に行くとは思えない陰鬱な顔で電車に乗っている。


「カモフラージュに苺か蜜柑連れて来いっつったろ…。」


「2人とも風邪ひいてんだよ…。人混み連れてって悪化でもしてみろ。また蜜柑が熱出したら死ぬの生きるのの大騒ぎだ。」


そしてまた難しい顔で黙り込む少年2人。

殆ど会話も無いまま町田のサンリオに到着。

亀一は真っ青な顔で仰け反っている。


「こ、ここか…。凄えな…。」


目にも鮮やかな色合いのひたすら可愛い物達が所狭しと並び、龍介の言った通り、店内には女の子と女性しか居ない。


「龍、適当に選んで来い。」


亀一の足は既に後ろに動き始めている。

龍介は亀一の腕をガシッと掴んで凄んだ。


「冗談じゃねえぞ、こら。一緒に選ぶんだよっ。」


2人共青い顔で店内に入ったが、何がなんだかサッパリ分からない。

目はチカチカするし、どれをとっても、使用用途すら不明に感じる。


「龍、なんだあの生首は…。」


亀一がキティちゃんの顔だけの何かを指差した。


「プレートって書いてあるから皿じゃねえの…。似た様なのがうちにあるぜ…。」


「なんで顔だけなんだよ…。気持ち悪いなっ。」


「俺に言われたって知らねえよっ。」


「もう、龍!早く選べよ!目がチカチカすんだよ!」


「俺だってそうだよ!大体きいっちゃんが朱雀用を買えって言い出したんだろ!?手分けして千円以内で何か探さなきゃ出らんねえだろうが!」


店内でヤクザのような喧嘩を始める2人を、女の子達とその母親が遠巻きに怯えた目で見ている…。


「早く済まそう…。」


ここは意見が一致し、必死に探してみる。


「龍、これは!?」


亀一が手に取ったのは歯ブラシセット。


「いくら?!」


「734円!」


「微妙過ぎ!」


「千円…。千円…。」


再び探す2人。

今度は龍介が叫ぶ。


「これは!?927円!ハサミ!カバー付き!」


「もういいんじゃねえか!?それにしろ、それに!」


やっと決まったので、レジに持って行く。

店員さんの格好までキティちゃん尽くめ…。

思わず目を伏せてしまう2人。


「いらっしゃいませ~。ご自宅用ですかあ?」


「んな訳ねえだろ!」


過度のストレスもあり、マニュアル通りの店員さんに思わず腹を立ててしまい、またしても店内の痛い視線を浴びた上、店員さんにビビられる。


「プ…プレゼントでお願いします…。」


「おリボンになさいますかあ?マスコットになさいますかあ?」


「は…?」


もうなんだそれは状態。


「こちらがおリボンで、こちらがマスコットになっておりますう。」


マスコットというのは、どうやらグリコのおまけの様な物らしい。

そう言えば、蜜柑がドッサリ、コレクションしていて、朱雀に見せていた様な気がする。


「じゃマスコットで…。」


「ではお包みしますので、店内ご覧になってお待ち下さあい。」


再び切れる龍介。


「なんでまた見ねえとなんねえんだよ!」


固まる店員さん…。


亀一が色々な意味で恥ずかしくなり、龍介を引っ張って外へ出る。


「ああ、もう嫌だ。本当に疲れた…。」


そう言った龍介の目の下にはクマまで出来ている。


「しっかりしろ…。もう少しで終わりだ…。」


そして店員さんが叫ぶ。


「キティちゃんのハサミをお包みでお待ちのお客様あー!?」


韋駄天の如く店内に走って入り、やはり店員さんを怒鳴りつけてしまう龍介。


「なんであんた内容まで言うんだあああ!」


きちんと間違いの無い様に仕事をしているだけなのに、店員さんも災難である。















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