第9話
悟はパラレルワールド装置を作ろうとしただけあって、細かい作業は得意らしく、暑い中、文句も言わずに黙々と作業をしている。
寅彦はパソコンでプログラミングをし、朱雀は亀一に教わりながら、器用さを生かして、タイムマシンの乗り物部分を作っている。
龍介は資材調達係で、今日は自転車を調達に行っているはずだ。
「しかし、加納って凄いね。何言っても調達してきてくれるんだね。」
悟は天敵というのを置いといてしまえる程感心している。
「あいつの爺ちゃんて人が、物凄く顔が広いんだ。
龍にしても、生まれた時からずっと地元ってのもあるし、誰でも気さくに仲良くなれるキャラだからさ。
その爺ちゃんにくっ付いてチビの頃から龍も歩いてるから、爺ちゃんの知り合いは、みんな龍の事知ってる。
お前は嫌いかもしれねえけど、アイツも人に好かれるタイプなんでね。」
亀一が苦笑しながら説明すると、悟も苦笑した。
「それは分かるよ。だから嫌いという所もある。」
「身内には分かんねえポイントだな。」
「そうかもね。」
噂をすれば影。
玄関の外で、龍介の声が聞こえた。
「きいっちゃん、錆だらけだけど、ちゃんと走るから、これでいいかあ?」
出てきた亀一は、錆だらけのママチャリを見て、無表情に答えた。
「うん。じゃあ、錆取っとけ。」
「なんで。」
「見た目悪いだろ。」
「これで表走り回る訳じゃねえんだろ?なんで見た目が関係すんだよ。」
「龍介え!」
やっぱり突然怒り出す。
今度から腰を浮かすのは3人に増えた。
「あんだあ!」
「輝かしいタイムトラベルに行くのに、錆び付いた自転車でいいとはどおいうこったあ!いいから磨けえ!」
「やだよ、めんどくせえ!そんな言うなら、てめえがやれ!」
「俺はパーツの組み立てがあんだあ!お前にそれが出来んのかあ!」
悟が立ち上がって、遠慮がちに言った。
「加納、手伝うから、錆は取ろう…。」
寅彦と朱雀を見ると、無言で頷いている。
仕方なく悟と表に出て、ヤスリで錆を取り始めた。
「あんた…。凄まじい面倒くさがりなんだね…。学校では気がつかなかったけど…。」
「別に隠してねえけどな。学校なんて、効率の悪い面倒な事ばっかだし。」
「だからいつもつまんなそうな、不機嫌な無表情でこなしてんの?」
「まあそうなってるだろうな。」
「楽しいと思う事ってあんの…?」
龍介はやすりがけの手を止め、悟をまじまじと見つめた。
「当たり前だろ!サイボーグか、俺は!」
「何が楽しいと思う事なの…?」
「剣道…、あいつらと遊んでる時…、ポチとの散歩…、家での勉強…。要するに、学校以外の事だな。」
「ふーん…。でも勉強っていうのが、ちょっと不思議だな…。楽しいもんなんだ、勉強って…。」
「難しい物分かった時の、天才じゃねえのか、俺って思う瞬間とか、楽しくねえ?」
「そういう経験は無いです…。」
「可哀想に。」
「……。」
「んじゃ、佐々木は何が楽しいの?」
「ー最近あんま無いかな…。」
暗い顔。
朱雀は虐められてるまで行ってないと言っていたが、仲間外れや、悪意に満ちたからかいは、辛い事だろう。
好きでは無いが、やはり心配になった。
「大村達、まだやってくんのか?嫌がらせ。」
「大丈夫だよ。もう抜けたから。でも、タイムマシン計画に入れて貰えたから、今は楽しいよ。」
「そうか…。」
「僕の事嫌いなのに、ありがとね。心配してくれて。」
「いや。でも、もし大村達がなんかしてくるようだったら言えよ?」
「え…?」
龍介は不敵にニヤリと笑った。
かなりの迫力に、悟は心の中でそっと引いた。
「2度とんな事しねえように、滅多滅多ギットギトの半殺しの目に遭わせてやるからさあ!」
ーやりたいんだね!?加納ー!
若干趣味がが入っているにしても、心配から言ってくれているのは分かるので、口には出さず、心の中で叫びながら、悟は誓った。
ーなんかされても言わないでおくべきだな!
しかし、今日は、加納の知られざる側面を2つも知ってしまった…。
1つは目を見張る程の面倒臭がり。
もう1つは、意外と武闘派の荒くれ者…。
ーいい奴だけど、絶対紳士じゃないだろ…。これはヤクザっつーやつだ…。唐沢さん、君は間違っている…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます