2-5
できなかった買い物も一通り終え、武具以外の荷を宿へと置いた二人は、昨日の現場へと再び赴いていた。
被害者の死体は既に片付けられており、飛び散っていた血もほとんどは清掃済みだったが、よく見れば未だ少量の血が付着している場所が残っている。
あの時は水分を有していたその赤黒い液体は、既に乾いており過去のものとなっていた。
ひとまず、アイドと男が殺陣を演じた場所を注視してみる。
捨て置いた剣は治安維持局が回収したのか、残ってはいない。
「うーん、特に何もないですかね……」
些細なことも見逃さないように地面を凝視しながら、アイドは同じように別の場所を探索しているソフィアへ声を掛ける。
先ほど購入した大剣を鞘へと入れて苦もなさそうに背負い、痕跡を探していた。明らかに不釣り合いそうな剣だったが、こうして見てみれば様になっている。
「こっちも特になんにも……。ん……?」
空クジの結果を伝えようとしていたソフィアが唐突に言葉を切り、何かを地面から拾い上げた。
「何かありました?」
ソフィアの様子を視認して、アイドが近寄る。
彼女は地面から拾い上げた物を天へとかざし、穴でもあけるのかと思うほど注視している。天を仰いでいるのはなにやら白濁色の石のようだ。
「法石ですか?」
アイドは彼女の隣へと並び立ち、同じように石を覗き込む。よく見ればそれは、丸く成形されたものが真二つに割られたようないびつな形をしていた。
「んー、そうみたい。ただこれ……」
何やら言いよどむ彼女。
気になったアイドはその石から一旦視線を外し、ソフィアの顔を見る。
何やら言葉を探しているような、そんな表情。
「力が抜け落ちてるっているか……そんな感じがする」
様々な法石に触れてきたソフィアは、力を発揮できるか否かに関わらず直感でその石の状態を感じ取ることができる。しかし、その経験のどこにもこのように空っぽな感覚を伝えてくる法石は存在していなかった。
「抜け落ちてる、ですか?」
いまいち言葉の真意を噛み砕けなかった彼は、オウム返しさながら聞き返す。
未だ最適な言葉を見つけられていない表情だったが、それでも彼女は続けた。
「うん、なんて言えばいいんだろう。元々法石だったもの……みたいなそんな感じ」
「もう使えないってことですか?」
「そうだね、多分もう誰も使えないと思う」
アイドの記憶を漁る限り、法石の力が枯渇する現象なんて聞いたことは無い。そしてそれは、ソフィアも同様だった。
「なんかすごく不吉って感じする、この石」
「自分が預かっておきますよ、局へ持ち込めば調べてくれるかもですし」
その言葉を聞き天へとかざすことを止めた彼女は、石をアイドへと渡そうと差し出す。彼も素直にそれを受け取って、制服のポケットへとしまった。
「あ、あの、すみません」
そうこうしていると、二人の背後から声が掛けられる。
気づいて振り返ればそこには、頬に傷のある小柄な女性が立っていた。
「どうしました?」
なるべく柔らかな態度を意識してアイドは応じる。
「あの、昨日、私ここにいたんですけど……。その、霧の中から走っていった人の行く方向を見てて……」
女性は恥ずかしいのか、二人と全く目を合わせずに話す。
「ホントですか? 教えてもらっても?」
「は、はい。案内します」
そういうと彼女は歩き出す。
二人も追従するようにその後に続いた。
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