2-1
相も変わらず開かれる花市の喧騒を背に、裏通りを進む二人。建物の合間から差し込む昼日が、陰陽をつけて地面へと落ちている。
先日と違い、紋章のついた制服をしっかりと着ている黒髪の青年。今日はシャツだけではなく、黒い上着も羽織っている。
そして彼の半歩後をついてゆくフロンド髪の女性。前髪やもみあげ部分は伸ばされているが、なぜか後ろ髪は肩の長さで水平に切りそろえられている。ただ髪を一束に握り、一気に切り落としたかのような印象を受けるその切り口。
「すいません、理髪店に先に行こうと思っていたんですが……」
前を行くアイドが謝罪を込めた口調で言う。
「んーん、先に仕事で大丈夫だよ」
昨日、アイドたち二人を庇ったことで、彼女の後ろ髪は一定以上焼けとんでしまった。
どうせ二人で都市へ行くなら、真っ先に理髪店へ寄りその髪を直してからとアイドは考えていたが、結局寄れてはいない。
端的に言えば、彼の寝坊が原因だった。
余裕なく出発した二人は結局、真っ先に治安維持局の支部へと向かっている。
どう考えても不自然な髪型で人前へと赴かせることに、アイドは申し訳なさでいっぱいだった。
「それにしても、すっごい変わったね、ココも」
「そうなんですか?」
「うん、私が来た頃なんて河川での通商は発展してなかったよ。っていうかそもそもこんなに大きな町じゃなかったし」
「自分が生まれてからはもうこんな感じだったんで、全然想像つかないですね。どんなだったんですか?」
「うーん、百とか二百とか、そんなくらいしか人いなかったよ。町の人に手伝ってもらいながら陣を張って……あ、もしかして支部ってアレ?」
話の途中でソフィアが前方を指差す。
「そうです。治安維持局クォーリア支部」
そこには、三角屋根でレンガ造りの建物がどんと鎮座していた。土台は石でできているようだ。
周囲の家々と比べると一回り大きいが、どう見ても警察組織の支部といった印象よりは見劣りしている。そもそもそれは、一般家屋に囲まれて建築されていた。
「多分三十分くらいで終わるとは思いますけど……ついて来て貰っちゃって申し訳ないです。災害に遭って保護した人って感じで適当に話すんで」
「おっけー、わかった」
被害の報告というと、応接室へと通された二人。
しっかりしたソファへと隣り合って座る。目の前にはメモ書きをする男性が一人。彼もアイドと同じように制服を着ている。
その着こなしはキッチリと締まった印象で、どこか服に着られている印象のアイドとは大違いだ。
整然と切りそろえられた蒼穹の髪に、聡明な印象を持つ眼鏡。バインダー上の書類にしきりと何かを書き込む様子はいかにも様になっている。
「では、報告をお願いします」
促され、アイドは先の土砂崩れの報告を始める。もちろん、ソフィアのことは話さずに、ただ救助したことだけを述べるように。
「――――という状況でした。街道は完全に土砂によって封鎖されているので、通行は不可能です」
「なるほど。……わかりました、街道の修繕は軍に要請してみます。で、貴女は?」
「ああ、彼女は……ソフィーさんです。今回の被災者で、運んでいたにを土砂で失ってしまったので今は南部出張所で保護しています」
南部出張所とは、アイド達の職場を指している。クォーリアの南部に作られているので南部出張所、そのままだ。
「すみません、生活に必要な物を失ってしまって……。お二人にはご迷惑をかけています」
まるで今までとは違う口調でソフィアが話し始め、アイドのごまかしを補強してゆく。特にアイドが頼んだことではなかったが、いい援護射撃となった。
「なるほどそれは大変でしたね。見たところお怪我されてはいないようで安心しました。こちらで宿所を探しましょうか?」
「いえ、そう長くはお世話にならないと思うので、このままあそこでお手伝いさせてもらいながら泊めさせてもらいます。お気遣い感謝します」
「わかりました。何か入用でしたら我々を頼ってくだされば。では報告はこんなところで」
「はい、ありがとうございました」
最後にアイドが軽く会釈をし、報告を終えた。
「あ、そうでした。アイドさん、一つ仕事を頼まれてくれますか? 何分人手が足りないものでして」
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