1-8
アイドの目の前で、腰から順にパールのような白い肌があらわになってゆく。
理想的な筋肉のついたそのくびれは、剣士としてみても、男としてみてもしなやかで、思わず触れてしまいたくなる。
もちろんアイドは触れないし、そんな空気でもない。
徐々に上げられてゆくシャツが肩甲骨まで達した時、真珠の肌よりも強烈に目を奪う物が姿を現した。
左右の肩甲骨の丁度中央に、太陽の輝きを模した宝石が一つ埋まっている。それはまるで最初からそこにあるかのように、何のゆがみもなく埋まっている。
そしてその輝きを、アイドは数刻前に見ていた。
四肢を直したあの輝き、そのもの。いやもっと、それ以上の煌めきが秘められていると、本能的に感じ取れる。
この宝石、いや、法石こそがあの力の源なのだと認めざるを得ない既視感。
「今の私が持つ、唯一の法石。永遠に傷を癒し続ける……そういう呪いの石」
唖然として見続ける二人を、彼女が紡いだ言葉が刺す。
人間が、生物が乗り越えたいと願う死の概念の先に紡がれる否定の言葉。
「私はこれのせいで、こんなののせいでずっと生きてきた。だから……死にたいの」
そっと服を着直し、困った笑みで笑いかける。
永遠の牢獄から出られた先に臨むものが死であるなんて、すごく、すごく悲しいことだとアイドは感じた。
同時に、自分ではその痛みを想像することさえ禁じられているような、そんな感覚もある。
「だから、助けてもらって薄情かなとは思うけれど、少ししたら出ていくよ。ホントに、本当にありがとう」
男二人が口を開く前に、彼女は言葉を続ける。
「いえ、それは……」と口ごもりをして数秒後、無理にでも会話を続けるように言葉を見つけ出した。
「……取られたという法石は、今どこにあるんでしょう」
少し眉間にしわを寄せて、彼女は答える。
「正直、わからない。取られたのは投獄される直前だったし。そもそも、竜を倒してからはあの石たちを使ってないんだよね」
伏せった瞳は言葉以上の含みを語っていたが、彼らがそれに気づくことは無い。
状況に気圧されて、彼女の表情を直視することすら難しいようだった。
水平線の果て。
水の世界の真ん中で、ただ立っている誰かをひたすらに見つめていた。
目を逸らすことも許されず、言葉を発することも許されず、ただそこにいる事だけがアイドに許されている。
「やっと、やっと追いついた」
判別もつかない誰かがふらっと振り向いて、大きく息を吸いながらふわっと肩を上げる。
遠くにいるはずなのに、はっきりと聞こえる声。
「心配しなくていいから! どうしようもないアイツに代わって、私がきちんと力を貸す!」
表情なんてわからないのに、どうしようもなく笑顔なことが伝わってくるその声に、鼓膜がじんと揺らされた。
走り寄ってくるその誰かはどんどんと彼に近づいて、近づいて、近づいて。
最後に彼の左手首に、触れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます