第46話 告白


そんなあたし達の噂は、あっという間に学校中に広まり。


たちまち話題のカップルになってしまったんだ。


と、自分で言うのも恥ずかしくて照れ臭いが、どうやらホントにそのようだ。



「ホントによかったね、ひかる!」


「ひかる、おめでとうっ」


月曜のランチタイム。


有理絵やさとみが大喜びしながらあたしの首に抱きついてきた。


ぐえっ。


く、苦しいっ。


「まぁ、いつかはこうなるとは思ってたけどさ。まさか、ひかるの方からいきなり告白しちゃうなんて!ひかるもやるねー」


マヤがニヤニヤしながらあたしに言った。


「それは、つい。なんていうか、自分でもわかんないうちにポロッと言っちゃったというか」


照れ笑い。


「ひかるから電話で聞いた時、あたしぶったまげて絶叫しちゃったもん」


有理絵も嬉しそうに笑ってる。


「いや、あたしがいちばんビックリしてるかも。まさか、いきなりこんな展開になるとは……」


なんだか恥ずかしくて、顔が赤くなっちゃうよ。



今日の朝。


桜庭と一緒に登校したんだけど、あたしの隣を歩いているこの人が、あたしの彼氏だなんて。


そして、あたしはこの人の彼女だなんて。


なんだか信じられなくて。


半ば、夢心地のままスキップのような足取りで学校まで来ちゃったよ。


そんなあたし達の登校風景を見て、みんなヒソヒソやいのやいの。


でも、クラスの女子達からは、意外にも『やっぱりつき合ってたんだー』という声が

多くて、あたしはひたすら照れ笑い。


まぁ、桜庭のことを狙ってた子達もけっこういたから反応は様々だったけど。


とりあえず、あたしの仲間はみんな心から喜んでくれてさ。


あたしもホントに嬉しかったんだ。


みんなにはいっぱい力になってもらったから。



そして、意外なこともあったんだ。


あの、情熱的にあたしに想いをぶつけてきてくれた、小林ゆきちゃん。


休み時間に、偶然にも廊下で彼女とバッタリ出会ってしまったんだ。


久々のご対面に、内心『げっ!』っと思ったんだけど、彼女は少しほほ笑みながらそっとあたしに歩み寄ってきてこう言ったんだ。


「先輩。朝、桜庭先輩と立花先輩が2人で笑いながら歩いているところを見かけました。ちょっと悔しいけど、とってもお似合いでした。わたし、応援してます。立花先輩のファンとして。ずっとーーーー」



ビックリしたけど、なんだかすごく嬉しかったよね。


だからあたしも笑顔で彼女に言ったんだ。


「ありがとう」って。


彼女も清々しい笑顔で、ペコッとお辞儀をして去っていったよ。


小林ゆきちゃんのラブ攻撃には、正直ホント参ってたけど、でも元はと言えば彼女のおかげであたしと桜庭は仲良くなれたっていう説もあるよね?


彼女があたしに告白してきてくれなければ、あたしと桜庭がつき合ってるという勘違いの噂も立たなかったし、そのままつき合ってるフりをすることもなかったし。


そして、ホントの彼氏と彼女になることもなかったかもしれない。


と、すると。


彼女は、あたし達の恋のキューピッドだったのか?


そう考えると、彼女にもホントにありがとう!だな。


それから、ミカ。


ミカとも朝の生徒玄関で会ったんだ。


お互いちょっと離れたところにいたんだけど、ふと目が合った時、ミカはかすかにほほ笑みながらちょっと下の方でグッジョブのサイン。


あたしもそれに応えてミカに向かってこっそりグッジョブのサインを送ったんだ。


なんか嬉しかったぜ。



そして。


あたしが今、いちばん気になっている。


健太ーーーー。


健太もね、朝あたしと桜庭に笑顔で『おはよっ』って挨拶してくれたんだ。


あたしと桜庭の両方の背中をバシッて軽く叩きながら。


学校に来てすぐにあたし達のことは知ったみたいなんだけど、あたし健太にまだこのこと直接報告してないんだ。


だから、健太にちゃんとこのこと話したいって思ってるの。


ただのクラスメートや友達じゃないから。



大切な、大好きな友達だからーーーー。



おととい、公園で健太と話した時、あたし『ごめんね』と『ありがとう』をもっときちんと言いたかったのに、なんだか泣いてばっかりでちゃんと気持ち伝えられなかったから。


だから、今日はその気持ちをちゃんと伝えようと思って。



だけど、その日の放課後。


まさに健太に話に行こうと思ってたその時、あたしはふいに桜庭に呼び止められたんだ。



「立花」


「あ、桜庭。もう帰れる?あたしちょっとだけ健太に用があるんだ。少しだけ待っててくれる?」


今朝、『帰りも一緒に帰ろう』と言ってくれた桜庭。


「ーーー健太に用って?」


桜庭が、真面目な顔であたしに聞いてきたんだ。


「え?」


「健太のケガのことで。ちょっと聞きたいことあんだけど」


ドキン。


胸が大きく鳴った。


誰もいなくなった放課後の教室。


桜庭が、静かに机の上に座った。


「……さっき。たまたま廊下で誰かが話してるのが聞こえてきたんだけど。健太が、立花のことでケンカしたって。どういうこと?」


えーーー……。


桜庭があたしの方を見る。


「あ……。えっと、それは……」


重い雰囲気の中、あたしの心臓はドクドク鳴っていた。


「健太に顔の傷のこと聞いたら、アイツは『ちょっとな』って笑ってた。なんとなく変だなって思ってたんだ。なんかアイツ、オレと目も合わせないし……。ーーーなんかあったのか?」


桜庭の真っ直ぐな目。


「ご、ごめん……。隠してるわけじゃなかったんだけど。実は……金曜の夕方に、ちょっといろいろあって……」


「いろいろって?」


「……放課後、健太と河口って男がケンカしたの。って言っても、健太は悪くないんだよ。いや、先に手を出したのは健太なんだけど……。でも、それにはちょっと理由があって……」


「理由って?」


「……実は、その河口ってヤツがなんか知らないけどあたしに言い寄ってきて……。チャラくて馴れ馴れしくてしつこくて、めちゃめちゃキモかったんだよ。肩に手とか回してきて。それで、あたしイヤでイヤで。ちょっと泣きそうになってて。そしたら、部活終わりの健太があたしを見つけてくれて。来てくれてーーーー」


桜庭は、あたしの話を黙って聞いていた。


「……それで、アイツに殴りかかって。なんかケンカになっちゃって……。すぐに卓や他のバスケ部員達が来てくれて止めに入ってはくれたんだけど……」


なにも言わずに下を向いている桜庭。


あたしも、どうしたらいいかわからなくなってうつむいていると。


「そのあとは……?」


桜庭が静かに口を開いた。


ドキッとした。


ふと、健太に告白されて抱きしめられた場面が、あたしの頭の中をよぎった。


桜庭に言うべきなのだろうか。


戸惑った。


でも、桜庭にウソはつきたくない。


「あの……。実は……。あたし、健太に告白されたんだーーー」


桜庭が顔を上げ、たしのを見た。


あたしは自分の想いを正直に伝えた。


「でも。あたしが好きなのは……桜庭だから。健太のことはすごく好きだけど、そういう好きじゃなくて……。健太もそのことちゃんとわかってくれてて……」


黙っている桜庭。


「桜庭のこと、がんばれって……。健太言ってくれたの。あたしが桜庭のこと好きなの、健太前から知ってたから……。でも、あたしは健太の気持ちもなにも知らなくてーーー。

それで、健太にちゃんと『ごめんね』と『ありがとう』を言いたくて。あと、あたしと桜庭のこともちゃんと報告したくて。それで、今……健太のとこに行こうと思ってたんだ……」


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