第45話 君が好き

「あー。楽しかったねー」


「こんなに歩き回ったの、久しぶりだぜ」



ひと気の少ない中路。


桜庭が歩きながら大きく伸びをした。


あれ、あたしあっちもこっちもって、さんざん連れ回しちゃったから……。


「ごめん。疲れた……?」


「全然。楽しかったよ。また行こうぜ」


桜庭がカラッと笑って言った。


「ーーーうんっ。行く!」


嬉しい!


また行こうって誘ってくれたよ。


やったぁー!


「あのさ、立花」


喜んで胸の中で小躍りしているあたしの隣を歩きながら、桜庭が言った。


「学校……も、一緒に行かねーか?」


「え?」


「明日ーーー。明日っていうか。明日からっていうか……」


え?


それって……。


「いや……。なんつーか。こんな風に、学校も一緒に行けたらいいな……と思って……」


それって、これから毎朝2人で一緒に登校しようってこと……?


「かったるい朝でも、立花と一緒だったら元気出るっていうか、なんつーか……」


ドキン。


あたしの胸が大きく鳴った。


どうしよう、すっごい嬉しいんだけど。


驚きと嬉しさで言葉が出ないまま、桜庭の顔を見ていたら。


「あ、イヤならいいんだ。ごめん」


「えっ?イヤなんかじゃない!全然!」


つい興奮してデカイ声で言うと、桜庭がふっと笑顔になった。


「よかった。いきなりこんなこと言ったから。ちょっと引かれたかも……って思った」


「そんなわけないじゃんっ。嬉しいに決まってるじゃんっ。だって、あたし桜庭のこと好きだもん!」


あ。


自分でここまで言って、あたしは止まった。


あたし、今なんてーーー。



立ち止まる2人。


自分に驚いたまま、静かに桜庭の顔を見る。


桜庭も、驚いた顔であたしを見る。


沈黙。



はっ。


我に返る。


一気に心臓の音がデカくなり、あたしの顔は火がついたように熱くなった。


あたしーーー。


なんだか知らないうちに、どさくさに紛れて。



桜庭に、告白しちゃったーーーー!!



ど、ど、ど、どうしようっ!


顔は真っ赤。


心臓は今にも飛び出しそう。


汗はダラダラ。


あたしはパンク寸前。


「か、帰るっ!!」


くるっ。


あたしは回れ右をして、猛ダッシュでその場を駆け出したんだ。


うおーーーっ!



「おいっ。待てよ!立花!」


後ろから桜庭の声。


ちらっ。


走りながら振り向くと。


げげっ。


桜庭のヤツ、追いかけてくるっ。


ひえーーー!


なんであたし走ってんのっ?


なんで桜庭も追いかけてくんのっ?


っていうか!


お、おそらく桜庭もあたしの気持ちにはうっすら気がついてはいるかも……とか思ったりはしていたけど。


だけど!こんな風にいきなり告白するつもりなんて全くなかったし、例え気持ちを知られてたとしても、実際告白するとなるとこれまた全然違くてっ。


もう、パニックだぁーーーっ!


自分でもなにがなんだかわからないまま、ひたすら猛ダッシュ。


だけど。


ツン。


なにもない道路でなぜかつまずき。


「うわっ」


べちゃっ。


あたしは、すっ転んだ。


「立花っ」


すぐ後ろから桜庭もやってきて、あたしのそばにしゃがみ込んだ。


「おい、大丈夫か?」


ひざ小僧からうっすら血が滲んでる。


「へ、平気だよっ」


あたしはとっさに脱げたミュールを拾って履き、また走り出そうとしたんだけど。


焦ってうまく履けなくて。


とにかく恥ずかしくて。


目の前の桜庭の顔も、見れなかったんだ。


顔がマグマのように熱い。


まだ真っ赤になってる自分がわかる。


心臓の音も、桜庭に聴こえるんじゃないかってくらい。


だから、やっとこミュールが履けたあたしは、反射的にその場から逃げようとしたんだ。


だけど。


ガシッ。


桜庭があたしの腕をつかんだ。


ドキン!!


「なんで逃げるんだよ」


桜庭の声。


「だ、だって」


上がる心拍数。


桜庭の顔が見れない。


「こっち向けよ」


くるん。


肩をつかまれ、あたしは桜庭の方を向かされた。


ひえっ。


「み、見るなっ。あたし、顔真っ赤なんだぞっ。心臓バクバクいってるんだぞっ。だから、見るな!離せ!」


あたしは、桜庭の顔を手で必死でむぎゅうっと押しのけた。


でも、パッと手をつかまれた。


そして。


「オレだって、心臓バクバクいってんだよ。ちなみに走ってきたからじゃねーぞ」」


聞こえてきた桜庭の声。


ーーーえ?


あたしは、そっと桜庭の顔を見た。


「……そのうち言うつもりだったんだ。ちゃんと。でも、いきなり立花が言うから」


ちょっと照れ臭そうな桜庭の声。


そしてかすかに照れ笑いしながらこう言ったんだ。



「おまえといると、すげー楽しい。つき合おう。オレも、立花が好きだからーーーー」



え。


一瞬、桜庭がなにを言ってるのかわからなくて、頭が真っ白になって。


これは、夢……?


あたしは自分に問いかけた。


でもすぐに、気づいたの。


感じたの。


あたしを見つめる優しい瞳に。


あたしのことを想って見てくれている、桜庭の優しい気持ちに。


そして、桜庭もきっとずっと感じていたハズ。


桜庭を見つめるあたしの瞳に。


桜庭を想ってずっと見ていた、あたしの気持ちに。


あたし達、お互い好き合っているんだ。



好き同士なんだーーーーー。



夢みたいだけど、これは夢じゃないんだ。


今、あたしの目の前で起こっているホントのことなんだ。


そうわかった時。


ドキドキ高鳴る胸の中で、なにか……なんていうか、うまくは言えないんだけど。


単に嬉しいという言葉だけでは言い表せないような、その先をいくもっともっと嬉しい気持ちというか。


そんな、幸せに満ちたような……そんな、愛しい気持ちが胸いっぱいに広がっていったんだ。



〝つき合おう。


オレも立花が好きだからーーーー〟



あたしは、今まで感じたことのないくらいの喜びと、素直な気持ちで。



「ーーーうんっ!」



笑顔でうなずいたんだ。


目の前の桜庭の笑顔。


でも、やっぱりこれは夢じゃないかしら。


そう思ってしまうくらい、あたしは嬉しくて嬉しくて。


その気持ちを抑えきれずに、思わず、ガバッと桜庭に抱きついた。


だけど、勢い余ってよろめいて。


「うおっ」


桜庭の低い声。


ドタッ。


尻もちをついて、そのまま後ろに倒れてしまった。


げっ。


「だ、大丈夫かっ?桜庭!」


「お、おう……」


腰をさすりながら、体を起こす桜庭。


「………………」


「………………」


お互い目が合って。


また少し沈黙。


でも、すぐに2人で吹き出した。


大笑いの桜庭とあたし。


嬉しい。


嬉しい。


嬉しい。


あたし、桜庭とつき合うんだ。


今日からあたし達。


彼氏と彼女、なんだーーーーー。


夢みたい。


こんなステキなことってあるの?


神様、ありがとう!!



あたしは、心の中で叫んだ。




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