第44話 初デート

そして、日曜日がやってきた。



昨日、健太に会って健太の気持ちを聞いて。


あたしは考えたんだ。


もし、あたしが健太に気兼ねして桜庭と会うのをやめたりしたら、健太はもっと悲しい気持ちになるんじゃないかって。


オレのせいで……って。


もしそんなことになったら、健太はあたしだけじゃなく、桜庭にも責任を感じて自分を責めてしまうんじゃないかって……。


それはきっと、健太のことを更に傷つけてしまうことになるような気がして。


だから、あたしは約束どおり桜庭と会うことにしたんだ。


もちろん、この日を、あたしはずっとずっと待ちわびてたよ。


楽しみで、楽しみで。


でも、思いもよらずあんなことが起きて。


そして、健太に告白されてーーー。


あたし、どうしたらいいかわかんなくなっちゃって。


健太の気持ちを知りながら、このまま桜庭に会いに行っていいんだろうか……って。



だけど。


あたしは、やっぱり桜庭が好きなんだ。


健太の気持ちは嬉しかったけど……あたしは、やっぱり健太の気持ちには応えられないんだ。



今まで、男の人に告白されたことなかったから、ホントにパニックになっちゃったけど……。


昨日、健太が公園でああ言ってくれたことを、素直に受け止めようと思ったんだ。


だから。


あたし、行ってくるよ。



「ーーーよし!」


あたしは、鏡に映る着替え終えた自分の姿を見て、元気にうなずいた


健太、ありがとう。


あたしはそっとケータイを手に取った。


昨日ね、桜庭からメールが来たんだ。


今日の待ち合わせ場所と時間の確認メール。


初めてやりとりしたメール。


すっごくドキドキしちゃったよ。


その時、改めて思ったんだ。



ああ、好きだなぁ……ーーーって。



だから、この自分の気持ちを大切にしたいって思ったの。


あたしのことを好きだと、真っ直ぐに気持ちをぶつけてきてくれて、そして心からあたしのことを応援してくれた健太のためにも。


それが、精一杯のありがとうに繋がると思って。



だからーーーー。


健太、みんな、行ってきます。


桜庭に会いたい。


すごく、会いたい。



立花ひかる。


生まれて初めて、好きな人とのデート。


心して行ってきます!


あたしは、元気よく玄関を飛び出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「うわっ!!」


ドクン、ドクン。


冷や汗と共に重く鳴り響くあたしの心臓。


「ひえ!……ギャー!!」


こ、この映画、予想よりもはるかに恐ろしいぜ。


もう何回も心臓が止まりそうなんだけどっ。


ぎゅうう。


手につかんでいつものを握りしめるあたし。


ハタと気がつくと、あたしは隣の桜庭の袖をぎゅっつかんでいた。


はっ。


「ご、ごめん!」


ぱっ。


あたしが慌てて離すと。


「いいよ」


桜庭がクスッと笑った。


は、恥ずかしい。


と、一瞬我に返るんだけど、またすぐに。


「ギャーーー!!」


恐怖のスクリーンにビビりまくりで、またもや桜庭の袖をぎゅっとつかむあたしなのでした。



「はぁーーー。めちゃめちゃおもしろかったねー!」


2時間半の映画もあっという間に終わり、あたしと桜庭は席を立った。


ふと横を見ると、桜庭がおかしそうに笑ってる。


「な、なんだよ」


「だって、立花おもしれーんだもん。オレの想像どおりだった」


「え?」


「ビビりまくり。映画より、立花の顔の方がおもしろかった」


「な、なんだよ、それ!」


2人で笑いながらロビーを歩く。



桜庭とお昼前に駅前で待ち合わせして落ち合ってから。


もう、楽しくて嬉しくて、踊り出しそうなあたしが、そこにいた。


桜庭といるとね、なにをしててもどこにいても、なんだかすごく楽しいんだ。


お昼ご飯は、2人でお好み焼きを食べに行ったよ。


なんか楽しそうで美味しそうだったし、桜庭とならどんなイビツなお好み焼きでもきっとものすごく美味しいだろうと思って。


予想どおり……ううん、それ以上にキャーキャーワーワー大盛り上がりで。


桜庭ってば、あたしがひっくり返すの下手なもんだから『貸せっ』なんてヘラ取ってさ。


代われと言うからには、さぞかし上手いのだろうと思いきや、桜庭もあたしに負けず劣らずちょー下手っぴで。


2人で爆笑しちゃったよ。


ホントに美味しくて楽しかったよ。


そのあとは、映画の時間まで街をぶらついて。


いろんなお店を見たり、ちょっとベンチで休んで道行く人を見ながらおしゃべりしたり。



ショーウィンドウに映る、あたしと桜庭。


自分で言うのもなんだけど、なんだかちょっとお似合いの2人ってカンジなの。


服の趣味もワリと合ってるみたいで、2人揃うとどことなく似たテイストでなかなか決まっているのだ。


ちなみに、今日のあたしのコーはピタッとした膝丈のデニムスカートに、上はちょっとラメ入りの白のキャミ。


その上に、ドルマンスリーブでシースルーになってる薄手の赤のカーディガン。


胸元には、小さなハートのネックレス。


バッグは赤色でカチッとしたタイプ。


小さな丸型でカワイイんだよ。


足元は、黒地にちょっとラメが入った低めのミュール。


で、桜庭の方はと言うと。


あたしと似たような色合いのジーンズに、白のTシャツに赤色のロゴが入ってるの。


足元は、ローカットの黒のコンバース


ね、ね?なんか合ってるでしょ?


もしかしてあたし達、他の人達から見たら。


仲良しのステキカップルーーーなんて思われたりしちゃったりして!


キャーーー。


カ、カップルだなんてっ。


思わずひとりで赤くなってしまったよ。


とまぁ、そんなこんなであっという間に映画までの時間が過ぎちゃったんだ。



「映画、終わったな。今何時だ?」


桜庭がそう言って時計を見た。


……まだ帰りたくないな。


もっと桜庭と一緒にいたいよ。


そんなあたしに気づいたのか、もしくは桜庭もちょっとあたしと同じ気持ちでいてくれたのか、笑顔でこう言ったんだ。


「どっか行くか。まだ早いし」


「ーーーうん!」


あたしは笑顔で大きくうなずいた。



それから、あたし達はのんびりいろんなとこを見て回ったんだ。


桜庭の希望で楽器屋にも行ったぜ。


普段ほとんど足を踏み入れないとこだから、なんだかすごく新鮮でワクワクしたよ。


ペットショップにも行ったよ。


子犬や子猫がカワイくてさー。


途中で食べたクレープも美味しかったなー。


もう、ホントに楽しくて。


あっという間に時間が過ぎていったんだ。



空はもう夕暮れ。


映画に食事にいろんなお店。


たっぷり満喫したあたしと桜庭は、ゆっくり家路へと向かっていた。







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