第37話 溢れる想い
次の日。
外は朝から雨模様。
でも、あたしの心は雲ひとつない晴天だ。
真っ赤なカサをさしながら、学校へ向かうあたし。
不思議だよなぁー。
好きな人がいて、気分もめっちゃハッピーだと、この雨音すらもなんだか穏やかで優しい音楽のように聴こえてくるよ。
昨日の出来事。
もちろん、夜ソッコー有理絵に電話で報告しちゃったよ。
この嬉しいラブハプニング?を黙ってなんかいられないぜ!
で、有理絵も大喜びしてくれて、2人でキャーキャーと長電話。
さとみ達には今日のお弁当タイムにでも報告しようと思ってるんだ。
あたしと桜庭がこうして一緒に映画を観に行く約束ができたのも、ホントにみんなが応援してくれたおかげでもあるからさ。
ああ、なんか世界中の人に『ありがとう!』と叫びたい気分だわっ。
なんだか今、すごく幸せなのだ。
ランランラン。
カサをくるくる回しながら歩いていると、校門の近くで見慣れた後ろ姿を発見した。
健太だ。
「健太!おっはよーん」
あたしはスキップしながら駆け寄った。
「おお、ひかる。月曜から雨だっつーのに、朝から元気だねー。おまえは」
健太が片手をポケットに突っ込みながら、眠そうにだるそうに歩いていく。
「あたしはいつだって元気だぜっ。それにさ、実はちょっといいことあってさー」
くふふふ。
つんつんと肘で健太をつついた。
「へぇーーー」
上の空のような、そっけない健太の返事。
「ちょっとー。健太、聞いてんの?」
人がせっかく昨日のラブハプニングを教えてあげようとしてんのに。
フツウさ、こういう時はもうちょっと『え?なになに?』とかってノリノリで聞いてくるもんでしょーが。
それなのに。
「聞いてるぞぉー」
とか言いながら、ちょーデッカいあくびしてやがんの。
全然聞いちゃいないぜ。
ふんだ、つまんないの。
いつもなら、頼まれなくてもギャーギャーつっかかってくるのに。
脳みそまだ寝てやがるな。
なんて思いながら、あたしはふと、昨日の有理絵の言葉を思い出したんだ。
ーーー『なんか変だったのよね』ーーー
そういや有理絵、昼間の電話でそんなこと言ってたな、健太のこと。
言われてみると……。
今日の健太も微妙に元気ないかも。
健太の顔を覗き込む。
もしかして、ホントに悩み事でもあるのか?
あたしは思い切って健太に聞いてみた。
「ーーーねぇ、健太。もしかして……なんか悩み事でもあんの?」
一瞬、健太の表情が変わった気がしたんだけど、すぐにいつもの調子で返してきた。
「バーカ。そりゃ、オレにだって悩み事の5コや6コくらいあるに決まってんだろ」
ええっ?
「5コや6コ⁉︎」
「そうだよ。新しいバッシュだろ、新しいマイボールだろ。他にもまだあんだけどよぉ。金がない!悩みは尽きないってわけよ。ひかる、買ってくれ」
はいはい、バスケの悩みね。
っつーか、そりゃ単なる欲しいものだろうが。
「知るか。自分で買え」
ーんだ、いつものおちゃらけ健太じゃん。
全然元気じゃん。
心配して損したぜ。
他愛のない会話をしながら生徒玄関に到着したところで、後ろから有理絵の声が聞こえた。
「おはよー。ひかる、健太」
「有理絵、おはよう!」
「うーす」
ぶるん、ぶるんとカサの水を払ってた有理絵が、思い出したように健太に言った。
「あ、そういえば。健太、昨日電話でなんか言いかけてやめたじゃん?どうした?なんかあった?」
有理絵の問いかけに、健太は笑って答えた。
「いやぁ。大した用事はなかったわけよ。わりわり。たまには有理絵と世間話でもしてやろうと電話かけてみたってわけよ。ソッコー終わったけど」
健太は笑いながら上靴を履くと、さっさとひとりで行ってしまった。
「やっぱり、なんか変」
下駄箱をパタッと閉めた有理絵が、健太の後ろ姿を見ながら言ったんだ。
「ひかる。健太、やっぱりなんか変だよ。なんか違う」
有理絵の言葉に、あたしはなんとなく胸がざわっとしたんだ。
「だって。大した用もないのに、健太がわざわざあたしに電話してきたりすると思う?絶対そんなのないよ。なんなのかはわかんないけど、なんかあたしに言いたいこと……聞きたいことがあったんじゃないかな」
健太ーーー。
さっきは〝やっぱりいつもの健太〟って思ったけど。
有理絵の言うように、やっぱり少しいつもと違うかもしれない。
今だって、あたしと有理絵がいるのにさっさとひとりで行っちゃったし。
「有理絵。健太のヤツ、やっぱりなんか悩み事でもあんのかな……」
なんか心配になってきたよ。
あたしが話してても、なんか上の空ってカンジだったし。
有理絵に電話してなにか言いかけてやめるなんて、一体……。
んん?
あたしの中である考えが浮上し、そしてある答えがひらめいた。
これは……。
ひょっとして、ひょっとしてーーーー。
〝恋わずらい〟というヤツかっ?
そうだ、それに違いない!
「有理絵っ。あたしわかったよ。健太の悩み!」
「な、なによ、ひかる。ヤケに目がキラキラしてるんだけど」
一歩後ずさった有理絵の肩を、あたしはガシッとつかんだ。
「健太が元気ないのはーーー。ズバリ、〝恋わずらい〟だよ!」
「誰に?」
そりゃあ、もちろん。
「有理絵にだよっ!」
興奮してるあたしを、有理絵がしらっとじと目で見てきた。
「なにを言い出すかと思えば、くっだらないジョーダン。朝からつまんないこと言わないでよねー。それにしても、健太のヤツ、ホントにどうしたんだろう。なんかあったのかなぁ」
そう言いながら、さっさか歩き出す有理絵。
あ、あれ。
なんかスカッてカンジなんだけど。
まぁ、確かにそれはないかー。
仲間!ってカンジのうちらだもんなー。
そんな中で、恋だの愛だの。
でも、もしそうだったら。
それはそれで、ちょっと意外で新鮮でおもしろかったのになぁー。
ちぇー。
あたしを口をとんがらせながら、自分の靴を下駄箱に入れようとしていたら。
「最近は、ラブレター来てないみたいだな」
聴きたかった声。
ドキンと胸が鳴る。
振り向くと、ちょっと笑った桜庭が立っていた。
桜庭だ。
「お、おっす」
軽く手を上げて挨拶。
朝から桜庭に会えて挨拶できて嬉しい反面、なんか昨日の今日でちょっと照れくさいかも。
すると、ちょっと先を歩いていた有理絵が振り返って。
「あたし、先行ってるね。お2人はのんびりごゆっくり」
そう言うと、ニコニコしながら小走りで行ってしまった。
もう、有理絵ってば。
別に一緒に行けばいいのに。
でも……朝の玄関から桜庭と2人で教室に行くの、ちょっと久しぶりだな。
サンキュ、有理絵。
「ここ最近、なんかわかんないんだけどラブレターもあんまり来ないんだよ」
「よかったじゃん」
話しながら、2人並んで歩き出す。
「それよりさ、昨日はホントに楽しかったよ。目の前で生演奏が聴けるのは最高だな」
「また来いよ。練習でよければ。スタジオやる日決まったら教えるからさ。今度は手ぶらでいいぞ」
「うんっ。行く!」
階段を上りながら、桜庭が笑いかけてくる。
ーーーー好き。
桜庭の笑った顔も。
しゃべり方も。
動作や仕草も声も。
全部、好き。
ドキドキする。
なんか、そばにいるだけでほっぺたが熱くなっちゃうよ。
「そうだ。日曜日さ、映画の前に一緒に飯でも食わねー?立花の好きなもん。差し入れのお礼におごるよ」
ウソ。
「ホント?いいの?」
「おう、なに食いたいか考えといて」
キャーーー!
これは、まさしく本物のデートだぁっ。
どうしよう、嬉し過ぎて踊り出しそうだ。
「うん!楽しみだね!ああ、早く日曜日になんないかなぁーーー」
はっ!
し、しまった。
嬉し過ぎて、また思いっ切り心の声を出してしまった。
ちろ……。
桜庭を見ると、パチリと目が合ってしまった。
ドキン。
ぽぽぽ。
自分でも、ほっぺたがピンクに染まっていくのがわかった。
もしかして。
あたしは、あなたが好きですーーーって。
バレバレ?
言葉に詰まってると。
「楽しみだな」
桜庭が、優しい笑顔で言った。
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